Joseki-kun has authorized me to continue his work here. Grazie. I'll post the extracted CRC interviews here, in a manner similar to
his 1.0 CRC thread here.
Please note that
gwern's source anthology actually has an incomplete translation. Notably, Tsurumaki's already very illuminating interview is missing parts 8, 9, 10 and 12. I'm personally interested in those parts, as well as Masayuki, Sadamoto, and the surprisingly important Ikki Todoroki.
1. Yoshiyuki Sadamoto - Main Character Design (02/10/2009)全記録全集:破 貞本 義行
取材・執筆:氷川竜介
主・キャラクターデザイン:貞本 義行『破』の公開で大きな話題となったのが、新キャラクターとしてのマリの登場である。
その誕生など新たなデザイン作業には、どのような秘話があったのか。
漫画版・キービジュアル含めたエヴァの中核クリエイターから見た『破』の実像が語られる。
マリは話し合い時に
積み重ねたラフが出発点インタビュア
マリのラフデザインでは、決定稿とは異なる多種多彩の容姿があります。だいぶ変遷があるようですが、最初にイメージをつかんだのは、脚本からでしょうか。
貞本
『序』の映像もまだ全然なんにもないときに読んだ『破』の脚本の準備稿には、マリが室内に動物をいっぱい飼っていてそれらと会話しているシーンがありました。それと「いつも日傘を差している」という感じのト書き。この二つが僕のイメージの出発点でしたね。日傘について庵野さんに聞いたときには「クラリス」というキーワードが出てきたように記憶しています。実はクラリスって日傘差してなくて、でっかい帽子なんですけどね(笑)。
でもその「クラリス」が容姿のことなのか性格のことなのか、あるいは生い立ちに陰を感じさせる雰囲気のことなのかは、よく分からなかったんです。監督に確認したところ「イギリスのミッションスクールから脱走してきたようなイメージ」ということだったので、別にクラリスの容姿がほしいわけではなく、いつも日傘を差していてミッション系の学生のイメージってことで、ラフを描きました。でも、初期にはクラリスの髪型も描きましたし、小山田マキっぽいのを描いたりもしています。
その種のラフは「こういうこと?」と会議の場でラフを描いては修正を重ねたものですね。暗さや鋭さを強調すると「綾波っぽいよね」と言われるし、「外ハネの髪型」にしたら鶴巻(和哉監督)と「ハル子って人気出なかったよね」なんて話になって、急に鬼門のような気がしてきたり(笑)。そんな感じで話し合いながら描いていました。
インタビュア
今の「眼鏡っ子」のイメージでまとまったのは、どのタイミングでしょうか。
貞本
最終的には『序』についていた『破』の予告で原画を描いたときですね。顔のアップと後ろ姿はビジュアルを固めなければならなくなって、そのときにラフの中から庵野さんが「眼鏡をかけてるコレがいい」ということで決まりました。『序』が公開された後にそれをもとに追加のラフを描きました。
ツインテールがアスカとかぶってしまいますが、アスカは髪の量が多く、大きなひと固まりのシルエットに見えます。マリのお下げはすべて左右に振り分けて耳の後ろあたりから長くツインテールになってたんです。後に庵野さんからは「結び目をもっと下げてほしい」という要求が出たんですが、結び目が下と上では快活度が変わるんです。上で縛るとちょっと活発なキャラで、下だと内気な文系の女の子に見える。眼鏡と相まって若干文系により過ぎになるのでちょっと抵抗感があったんですが、アスカとできるだけかぶらないという理由で納得して結び目を下げました。あとは「カチューシャ」をつけるというのが庵野さんの追加のアイデアです。眼鏡、カチューシャ、ツインテールとけっこうアイテムてんこ盛りの感じに仕上がりました。
インタビュア
服装に関してはどうやって詰めたのでしょうか。
貞本
次回予告の後ろ姿を描いたときはどうしてもイギリスっぽく見えなくて、「寒い国から来たイメージ」ってことでブレザー風の長袖にチェックのミニスカートを描きました。ただし本編は夏の話だから、やっぱりブレザーはないなと思って普通のパフスリーブの白いシャツ+ネクタイに変えています。
話し合いの中では『トレインスポッティング』に出てくるイギリスのミッションスクールに通う女の子の話も出ていて、ブレザーに関してはその影響もあります。あとは体型や髪型など『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』の新垣結衣さんが影響してたのですが、増尾(昭一)さんがファンだったらしく資料をいっぱい持ってきてくれたので、それを参考にしたこともありました。
結局、『序』が終わってから『破』の脚本は何稿か重なりましたが、僕にとってマリのキャラクターはどうもふわふわしてて、いまいちつかめない時期が長かったですね。デザイン的に他のキャラとかぶらなければ何とかなるかという思いで設定を起こしてました。
インタビュア
マリのデザインにとってはやはりその「レイとアスカにかぶらない」というのが大命題でしたか。
貞本
最初は「二人のど真ん中を狙う」という意図がありましたから。つまり二つ異なるものがあった場合、ど真ん中を描いてしまえば距離感がとれて、どちらにも見えないという理屈です。しかし脚本を読んだ印象も戦闘シーンはアスカっぽいし、普段は「よくしゃべる綾波」みたいな感じで、どっちにもとれる。「だったら絵だけは全然違う方向性にしなければ」と思い、髪の毛の色も暗めに長くしたんです。これならもし性格的にかぶる部分があっても、違ったキャラに見えるだろうと。髪のフォルムだけじゃなく頭身もかぶらないように高くしました。脚本初期はアスカのことを「アスカちゃん」なんて呼んでたから、僕としては年上の高校生ぐらいに見えてもいいと思って進めていましたし、監督陣にもその点では了承を得てました。
そうこうするうちに何カ月かして突然「脚本の方向性が一八〇度変わったことで、性格もがらっと変えました」なんて報告を受けたんですよ(笑)。読んでみたら、確かに変わってました。動物といっしょに話すシーンも消えたし、ふわっとした不思議ちゃんな感じが全部なくなっていたんです。そこからさらに何回か脚本変更を繰り返したようですが、「もう絵は変えないからね」って最終のつもりのキャラ表に起こした直後、さっき話した庵野さんの「髪の結び目を下げてくれない?」みたいな要求があって、それで決定稿に持ち込みました。
初登場のマリと旧プラグスーツインタビュア
マリの容姿の眼鏡以外については、どうまとめられましたか?
貞本
僕としては当初からキリッとした切れ長目のキャラだと思ってたんです。「軽いつり目なら、かわいく描けるだろう」と。でも松原(秀典)君からは「僕はつり目が苦手だから、絶対やめてくれ」なんて言われるし、鶴巻も夜中に来て「このつり目ともたれ目ともとれる中途半端な目は何とかならない?」なんて言い出すわけです。「いや、それがマリの味なんじゃ」とは思いつつ、「どっちがいいの?」と鶴巻に聞いてみたら、「そりゃつり目でしょう」と。それで松原君には悪いけど、「つり目でいこう」と決心しました。そんな感じで顔自体はわりと早く決まったと思います。むしろ服関係の方で作業時間が足りなくなりましたね。
インタビュア
初登場シーンではマリは旧式のプラグスーツを着ています。
貞本
本田(雄)君がアバンのシーンから取りかかるということで、旧プラグスーツを先に上げました。僕のイメージは最初から「ガミラスのパイロットスーツ風」と決めてました。レイたちが着ているプラグスーツより世代が古く見えるという設定もあったし、イギリスなら「イメージカラーは緑」なので、「緑で古く見えるものはガミラス」というつながりですね(笑)。あとロシアのソユーズのような感じとか、色は緑とグレーとが混ざっている『謎の円盤UFO』のスカイ1(ワン)用スーツがカーキ系だったと思いますが、あの辺の今見ると古い感じの軍服のイメージも加味してます。
インタビュア
ヘルメットをつけた理由は?
貞本
シンジたちが頭につけてる小さなパーツは、もともとシンクロ率を上げるためのインターフェイスなんですが、TVシリーズでも漫画版でも、ユイが最初の実験で大きなヘルメットをかぶってます。これは頭部の保護機能というよりはそれと同じインターフェイスなんです。マリのバイザーみたいに見えるパーツも中に表示器のついたガンスコープみたいな装置で、EVAのコックピットで視界から離れたところに浮かんでいるスクリーンと同様なものが内部で展開されています。僕からデジ部(カラーデジタル部)に「ここに手描きでは不可能なぐらい複雑な文字を入れたい」って話をしたら、「では、後処理で貼り込むために色トレスでグリッド模様のアタリを描いておいて下さい」と言われたので、キャラ表にはそのグリッドが描かれてます。本田君にもそう伝えました。その文字があればバイザーには見えないだろうと思ったんですが、色を赤にしたことで結局バイザーにしか見えなくなってしまいましたね。フォルムも含めちょっと失敗です。
インタビュア
旧プラグスーツは各パーツの雰囲気も特徴的ですね。
貞本
胸と足のエアが入ってるキルト的な部分は、ロシアの宇宙服と『トップをねらえ2!』の宇宙艦隊の軍服をイメージしています。腰に何かポイントがほしいなと考えてたら、たまたま目の前に置いてあったキングジョーが目にとまって(笑)。それを参考にしながら丸に四角い溝のついたパーツを配置しました。手から出ているチューブは「動きを逐一伝える神経系のコードを引きずりながら操縦するのがいい」という鶴巻のアイデアです。足先のパーツやコード類は次世代型と関連を持たせたくて、今のプラグスーツのラインに合わせています。
フェンシングのスーツのように下半身だけ身体にぺたっと張りついている感じにして、ヨーロッパの貴族的要素も意識しています。ヘルメット後部は自転車のスピード競技に使うモノを参考にしました。
インタビュア
このスーツはパーツもかなり多くて複雑な構成ですよね。
貞本
庵野さんからは「座りっぱなしであまり動かないシーンだから、線を増やしていいよ」と言われてましたが、本田君のところに行って原画描いてる様子を見たら、アバンだし気合が入ったのか、ノリノリで動かしまくってるんですよ(笑)。「どんだけ線を増やしても、この人は動かすんだ。申しわけないな」と思いました。
インタビュア
アバンでマリの顔を見せないのは、早い時期から決まっていたことですか。
貞本
はい、コンテに入る前から顔は見せないって聞いてました。最後にメットを外すと、長い髪の毛がざっと出てくる。それまでは顔も見えないし、髪の毛さえ見せない。セリフから女性だとは分かるにせよ、素性も分からない。最後の最後で顔をポンと見せ、「予告に出てたあの眼鏡っ子だ」ってなった方が、印象的だという演出意図でしょうね。バイザー型モニタが真ん中から左右に割れるようにしたのも、それを強調するためです。普通なら上に上がると予想するだろうから、あえて違う御開帳っぽい開き方にしてみました(笑)。
工業デザインの発想を取り入れた新旧プラグスーツインタビュア
マリに関しては新しいプラグスーツも描かれてます。
貞本
苦労したのは色ですね。いろいろ塗ったけど、なかなか決まらなかったんです。試し塗りバージョンも、たくさん残っていると思います。濃い紺色とか黄色もピンとこないし、「かぶらない色って、もうピンクしか残ってないよ。まさかそれはないよね」と、最後の最後でほとんどあきらめかけたころ、色彩設計の菊地(和子)さんにパソコン上の色相バーでピンクに調整してもらってたら、「あっ、これだった!」という感じで。すぐ鶴巻と庵野さんを呼んで、その場でチェックをしてもらって決まりました。僕としては意外な展開でしたね。
さっきのアスカとレイの中間をとる話にも通じるんですが、「赤と白」の間のピンクはあえて除外してたんです。それとキャラクターにはイメージカラーがあるから、短い登場シーンで印象的に見せるなら、色は極端に変えない方がいいとも思ってました。学校の制服に採り入れた「イギリス的なタータンチェック」の赤のイメージは入れたいし、同様に旧プラグスーツの「グリーン」も変えないようにしたいと。ところが新プラグスーツをグリーンにすると、単体ではまとまって見えても、ヒロイン三人並べたときに、マリだけものすごく地味に埋没してしまうんです。綾波とアスカがアニメキャラ、アニメキャラときて、「マリだけ実写?」みたいで。それをピンクに変えた瞬間、「やっとマリもアニメになってくれた」って感じでした。
インタビュア
マリとカヲルのプラグスーツは新型ですが、そう見せる工夫は何か考えられましたか?
貞本
先ほどのロシアの宇宙服やキルティング素材で古く見せる工夫の逆ということですよね。それは工業デザインの流行の歴史を参考にしつつ、カーブを入れたりエッジをつけたりして表現しました。
iPodの断面図の進化が典型的な例ですが、最初は機能重視で真横から切ると断面が真四角のものが出てきます。次に角がとれて丸くなり、人間に優しく柔らかなエルゴノミックなデザインになる。次は全体にしゅっとシャープなラインを取り入れたり部分的にはエッジも立ってきて、彫刻的なフォルムになる。反動で少しだけ戻ったりはしますが、決して昔の四角いデザインには戻らず、柔らかい曲線のラインとエッジが両立するようなデザインに必ず変化していくものなんですね。
こうした流れは電化製品や自動車のデザインでも同じですし、新素材なんかを採り入れつつ必ず四角い部分の角がとれたり、丸すぎた形の端が少しだけ尖ったりして進化します。僕は好きな車からデザインの影響を受けることが多いのですが、英国のスポーツカーのロータスエリーゼのシリーズ1からシリーズ2へのヘッドライトやインテイクの進化には相当な影響を受けてます。
なのでマリとカヲルのプラグスーツには現実世界の最先端の工業デザインの流れで必ず出てくる「とげとげしたデザインライン」を採り入れ、並べたときに誰が見ても「こっちが新しいよね」と思えるような次世代イメージを意識しています。
新たな統一のためのキャラ表インタビュア
『破』では、キャラクター設定書も一部更新されていますね。
貞本
それは複数の作監(作画監督)による絵柄の統一のために起こしたものです。『破』の作業に入るときに「今回は総作監制度ではなく、キャラは複数作監でいく」と言われました。効率化を図っての話だと思います。その代わりに各作監も原画も動画も、みんなで統一できるキャラ表がほしいと。これは『序』から言われてまして、後手後手に回ってたんですね。僕としては「どうせ誰も似せないから、無駄だと思いますよ」と主張してきたんですよ(笑)。作監はやはり自分の絵で描いてしまうものですから。結局、今回それで何か変わったかと言えば、何も変わっていない気がしますね。
ただ、ゲンドウだけは『序』のときシーンによって昔の前髪が短い感じで気になってたので、「これでお願い」というキャラ表が示せて良かったです。初期のシンジって前髪が短く、おでこが出てたんです。ゲンドウも親子だという理由で、それに合わせてました。でも、今はシンジの髪はみんな長めに描きますよね。その方が都会的でかわいいから。結局、ゲンドウの髪も短く描く意味がなくなってしまったんです。それもあって漫画版のゲンドウは長めの髪で描きましたが、それに引きずられて長く描く人とキャラ表どおりに短く描く人とが出てきたので、「今回は長い方で統一」と。
インタビュア
『破』ではパートによってゲンドウの眼鏡にフレームのある場合とない場合があると聞きました。庵野総監督は「ゲンドウなら眼鏡を二種類持ってるだろう」という結論にされたようですが、貞本さんなりの正解は?
貞本
フレームはあります。色は暗い黄色を入れてますが、TV版ではロングで中途半端に色を入れるとつぶれるし、カットによって黄色く見えたりするので、ちょっとでもカメラを引いたらフレームは黒く塗りつぶしてくれと、そんな指定をしてたと思います。で、フレームがあったりなかったりして見えたのかも。多分、そういったことで今回の設定もフレームなしと勘違いしてしまったのかと……。
でも、その程度は無理に直したり統一しなくてもいいと思います。僕もバラツキが普通だった時代のアニメを観てきましたから、「いいじゃん、そんな細かいところ気にしなくても」とも思いますね。
インタビュア
普段着は鈴木(俊二)さんと松原さんのデザインでしょうか。
貞本
ええ。でも線画を渡されて色だけ僕に投げられたので、これも苦労しました。どういうつもりでデザインしたのか分からないから色が決められなくて……。「アスカのここを全部白に指定すると下着に見えちゃうけど、違うんでしょ?」「違います」なんてやり取りがずいぶんあって、他人のデザインに色をつける作業はものすごく難しいと実感しました。結局、僕がシンジの私服を茶色にしてたのを、最後の土壇場で鶴巻が「やっぱりブルーにしよう」って色を変えたりしてたと思います。なので、最終チェックまではしていません。
インタビュア
トウジのキャラ表も大きく描き直されてますね。
貞本
トウジのジャージはずっと気になってたので、本当は『序』のときに変えたかったんです。裾は先細りで足の裏に通すベルトがついてましたが、現実世界ではもうポピュラーじゃない。最近のはズドンとストレートになってますよね。しかも着こなしも古くて、襟が中途半端に前開き。今は閉めるなら閉める、開けるなら全部開けますよね。「ジャージくん」を売りにするなら、夏なのは無視して今風に上まで閉めるのがいいという話もしてそうしました。ティーザービジュアルも、『破』のとき、そこを描き直してます。
インタビュア
単にアスカとマリを描き加えただけではないと。草が生えてますが、その意味は?
貞本
あの場所は端の方が欠けて壊れた校舎で、実は屋根がなくて、オープンセットのようになってるんです。要するにカメラが室内に入っていないことを分かりやすくするために、草を追加しました。誰か「あそこはオープンなんだ」って指摘してくれないかなと期待してましたが、なかなか……。僕の画集に入れた『序』の絵も草を生やして修正してますから、『序』と『破』で時間経過があったわけではないです。シンジの下に落ちてる影の角度と柱の影の角度が違うとか、主に失敗したところを細かく直してますよ(笑)。
アスカのテスト用プラグスーツインタビュア
アスカのテスト用プラグスーツは、コヤマシゲトさんのデザインがベースですよね。
貞本
「もう作業が間に合わない」という時期にコヤマ君にチームに入ってもらい、庵野さんのラフ画をもとに鶴巻主導で三人で打ち合わせして「スクール水着の露出の逆パターン、つまり手と足は普通だけど、真ん中だけ透けて身体が見える」という方針を決め、コヤマ君に任せました。上がってきたものを作画しやすく僕の方で若干修正しています。首のところにセンサーがついてて、「戦闘服ではなくモニタ服なんだ」というのが鶴巻のこだわりポイントでしたが、そのパーツは作画時に省略されてしまいました。マリの手首には有線のパイプがついてますが、これは無線のアンテナがいっぱいついてる感じですね。
エロティックに見えるのはサービスの側面もありますが、裸に近い方がモニタしやすいという設定だからですね。端子の並びについては「『ゲッターロボ』のミチルが着るスーツの胸ボタンって、乳首を描く大義名分にしか見えなくて嫌だよね」って話も出ましたね(笑)。だから乳首の位置にだけはつけたくないなと。ラインで乳首を隠そうかという話になったとき、鶴巻が「だったらヌーブラが必要でしょう」と言い出しました。『トップ2』のメイド服も透けてたんですが、肌と服を区別する何かのラインを描かないと、乳首でもないかぎり透けてるようには見えない。その反省もふまえて、透けてることを表現できるパーツとしてのヌーブラを描き足しました。
インタビュア
オレンジの塗り分けだけだとツートンカラーのスーツと誤解されるということですね。股間も下は履いてるのかとか気になります。
貞本
もともとプラグスーツって、基本は裸で着用ですから、下着はつけていません。
インタビュア
頭のパーツは?
貞本
ここは僕だったかな。音響関係の人がよくヘッドフォンをずらしてかけているのが面白いなと。これもセンサー類なので最初はダブルで四つありましたが、「ちょっとうるさいね」ってことで二つにしました。庵野さんの最初の発注表には「センサーいっぱい」と書いてあって、ウサ耳に見えるパーツが何の脈絡もなくギャグのように描いてあったんです。「これもセンサーかな?」というところから出発し、次第に小さくなっていきました。前方に突き出たパーツは、そのウサ耳の名残りというわけです。
マリとシンジの出会う
屋上シーンの作画インタビュア
作画面では、マリとシンジが初めて出会う屋上のシーンでレイアウトを担当されたそうですね。
貞本
マリがまとめて出てきますから、最初のころに僕が作監をやる予定だったシーンです。その修正原画をキャラ表代わりに使い、他の作監が合わせるはずでした。ところが画コンテがずっと後回しになってて、結局は納期優先で社外の原画マンに出すという話になってしまったんです。絵柄統一のために、レイアウトの上に先に作監修正を入れるという、今はどこのアニメの現場でもやっている作業を頼まれました。すでに代表的なキーポーズが松原くんのラフで上がっていたので、それに緑色の紙(修正用紙)を乗せ、残り時間もあまりなかったから、顔はトレスすれば大丈夫なぐらいまで描き込み、後で原画に修正入れなくて済むよう、比較的きちんと描きました。
そもそも「マリが空から降ってくる」って出会い自体、そのときのコンテで初めて知ったんですよ。鶴巻は、「インパクトのある出会いなんて、もうあんまりないんですよ。空から降ってくるか車に轢かれるか、ベスパに轢かれるか」なんて言ってて(笑)。「じゃあ、これってハル子との出会いのバリエーションなんだ」と思いました。「インパクトのある出会い」って、鶴巻的には何か事故的なものなんですかね。
それまでは携帯電話を川に落として二人で探すとか、そんな叙情的な出会いの案もあったようで、鶴巻は延々と悩んでたようでした。「シンジがレイの部屋に行ってタンスをまさぐってると、シャワー浴びてたレイがすぐ後ろに立っている、あのインパクトに勝てる出会いなんてない」って悔しそうに言ってました。
インタビュア
他に作画をされたのは?
貞本
「これよろしく」って庵野さんが持ってくるカットは、車関係が多かったです。車の中って意外に狭いんですが、普通に描くとどうしても広い車に見えてしまいがちなんです。ミサトの車を後ろから見たレイアウトを、もっとタイトな空間に見えるよう修正しました。あとはカーナビのモニタの色や、車内にある専門用語の文字関係ですね。
あと、落下使徒のパートで摩砂雪さんに「レイの顔が決まらないから、ちょっとお願い」と頼まれて作監修を入れたカットがあります。すでにレイアウト段階で修正が入ってて原画も上がってて、その上に摩砂雪さんも直してて、さらにその上から直してくれと。でも僕の修正もやっぱり気に入らなかったみたいで、本編を見たらそこからまた変わってました(笑)。最初にミソがつくと、どうしても最後まであまりいいカットにならないものなんですよ。CGみたいに、やればやるほどいいカットになっていくならいいんだけど、手描きの世界では「苦労して苦労して、最後の最後にようやく良くなりました」ってことは、ほとんどないんですね。もともとの絵にパワーがないと、「なんか違う」と思って細かく足して直しても駄目らしいんです。そこが難しいところです。
マリのキャストが決まった瞬間インタビュア
鶴巻監督からはマリのキャスティングを坂本真綾さんに決めるにあたり、貞本さんと話し合ったとうかがっています。
貞本
話し合ったとか大仰なものじゃなく、年末にカラー社内でパーティーをやったんですが、「マリを誰にしようかね。もう決めなきゃいけないけど、新人だと釣り合い取れないよね」と大月(俊倫)さんが言い始めたんですよ。それで「とりあえず合う合わないは別として、声質がかぶらないことと、ベテランがずらっと並んでる中で臆することなく演技できる人を考えると、新人じゃ厳しいし……数人しかいないよね」と、名前を出していきました。僕は声優さんをよく知らなかったので、「男っぽいイメージなのかな? 知ってる人の中では声質としては坂本真綾が一番しっくりくるけど」ぐらいの感じで、軽く言ってみただけだと思います。
インタビュア
貞本さんと鶴巻さんで真綾さんを選んだなら、世間では「トップ2の流れで」と思うはずですが、そういうわけではないんですね。
貞本
ラルクとマリでイメージをだぶらせたことはなかったです。社内に真綾ファンが二人ほどいたのでその場で聞いてみたら、「ベタ過ぎて嫌だ」とか「マリのイメージと違う」って意見でした(笑)。「俺はいいと思うんだけどな」と言ったら、鶴巻が「僕もすごくいいですよ」って大賛成だったので、大月さんが「じゃあ俺が何とかするから、決めるよ。本当に決めるよ!」とか言って、庵野さんのところへ話に行き、あれよあれよという感じで、名前が出てから決定まで三十分以内だったと思います(笑)。
インタビュア
貞本さんもアフレコにいらして演技を聞かれてましたよね。実際、どうでしたか?
貞本
最初はラルクのイメージに引きずられましたが、すぐにいけると思いました。脚本ではアスカ的な部分とレイ的な部分がどうしても融合しなかったんですが、坂本さんがやることで、すごくキャラクターがよく見えてきた。「なるほど、こういうキャラだったんだ」と。
インタビュア
鶴巻さんもほぼ同じことをおっしゃってたので、おそらくあの場にいた全員そうなんでしょうね。
貞本
僕はちょっとこもったような、わざとらしいしゃべり方を想像しつつ絵をずっと描いていたので、「こういう声質の声優さんっていないけど、誰がやるんだろう」と思ってましたから、想定したのとは違いますが、結果的にすごく良かったんで大満足でした。
ただ庵野さんも鶴巻も、音楽と声優さんに関しては昔から絶対にハズレを引かないんで、心配はしてませんでした。なんだかんだあっても、最終的にアタリを引く。しかも毎回。「なんでここにこの声持ってくるかな」なんてことは、庵野作品、鶴巻作品にはないんですよ。うまいと思いますね。
アスカを3号機に乗せる選択インタビュア
鶴巻さんによれば、アスカが3号機に乗るアイデアは貞本さんからということでしたが、実際は?
貞本
僕としては、半分冗談みたいな感じでしたね。夜中にスタジオに顔出したら、鶴巻が前日に出したアイデアを庵野さんに全却下されたらしく、すごく煮詰まってたんです。新キャラのマリも描かなければいけないし、今までのキャラの話も必要だし。要素があり過ぎて……呎的には大きくカットすべきなのに、「これも入れたい、あれも入れたい」と言われるだけで、どこをどう落としていいのか分からない。そんな話題でした。
ポイントはアスカとマリです。バランス的にどっちを弱くすればいいか分からない。どちらか片方なら、新キャラを出す意味を絶対に問われるから、マリの方をきちんとやらなきゃいけないよねと。だったらアスカは弱くなっていいかと言えば、「アスカ出さないわけにはいかないでしょう。でも必然がないと、庵野さんは出番をどんどんカットしていくかもしれないから、ファンの反応が怖い」なんて、そんな堂々めぐりの話を夜中にしてました。
「だったらトウジの代わりにアスカを3号機に乗っけちゃえば一石二鳥だよね。トウジが要らない気がするな」って僕が言ったら、鶴巻は「うーん」ってしばらく考えてから、「そうですよね」って。あくまで「たとえば」と軽く言ったつもりでしたが、鶴巻は「あっ、それって意外といけるかも」と本気で検討し始めた感じです。
インタビュア
貞本さんが漫画を描かれるときに、その案を考えたことがあるんじゃないかとも鶴巻さんは言ってましたが、それはどうですか。
貞本
短くまとめるって意味では『新劇場版』と漫画は似てますね。僕は最初5~6巻で終わらせるつもりでしたから、確かにいろいろ考えましたよ。リツコが邪魔だなとか、オペレーター三人も描いてらんないなとか、冬月なんて描けないとか。もっと短くタイトにしようと思ってたときには、「トウジって必要ないよな」とか。
インタビュア
あっ、やっぱり一回は思ったことがあるんですね。
貞本
僕はトウジよりはむしろアスカが必要ないと思ってましたけどね。レイは女の子だし第壱話から出ている。男の子の友情としてやっぱりトウジがいる。レイとトウジがいたら、二人目のアスカは添えものみたいだなと。最初からレイのライバルとして登場していたら華はあるけど、ストーリー構成上のバランス、キャラの役割としては「第八話から出てきたナンバー2」っぽいところがある。
ただ、前の劇場版だと庵野さんの中でアスカがすごく大きい存在になってキャラクターとして立っていったから良かったけど、僕としてはストーリーにあまり関係のないキャラだと思ってたんです。むしろトウジとの男の友情やそれにまつわるエピソードの方をちゃんと描きたい。でも結局、庵野さんは友情の役割をカヲルの方へ振ったわけですよね。レイでやるべき部分をアスカに持っていき、トウジでやるべき役割をカヲルに持っていく。庵野さんってどのキャラも捨てられないんだなと。
しかし、『破』では誰か捨てないと結局、誰も描けないことになると……。ここはトウジを切り捨てるべきでは? と鶴巻に進言しました。
逆に最初のオールラッシュでは庵野さんに「マリはカットし過ぎで、ちょっとまずいですよ」とも進言しました。マリはユーロネルフと話しながら学校の屋上に降りてきたのに、その後は学園生活にいっさい絡んできてませんよね。最後の最後でいきなり2号機に乗って出てきても、お客さんの反応は「そういえばマリっていたな」でしょう。「“私のことも忘れないでね”っていうシーンがど真ん中あたりに入ってれば良かったね」と話したら、庵野さんが土壇場で『序』の次回予告のカットをリライトして追加してくれたんです。
インタビュア
鶴巻さんも、「マリがなかなかお話の中に入っていかない」と悩んでましたね。
貞本
たしかに入っていかないですね。難しいと思います。鶴巻は「マリってレイやアスカとシンジに対するリアクションがどう違うか」っていうことで悩んでました。でも、そのエピソードを入れるにも呎が足りない。弁当などの食事シーンも、僕なら真っ先に切ってたと思います。加持とミサトが延々と食べながら飲み屋で話すシーンも、僕は原画担当の平松(禎史)さんに「早く上げないとシーンごとなくなりそうな予感がします」なんて予言してたくらいですからね。
で、マリの新しいエピソードをまるまる一個、ポンと増やすはめになるのでは? と勝手に踏んでました。でも完成品を見たら、そんなことはなくて、庵野さん的には弁当のエピソードは、ものすごく重要だったんだなと思いました。
熱気の宿った驚きのフィルムインタビュア
今回、スタジオにはどれくらい入っておられましたか。
貞本
最後の方はほとんど入っていないです。画集のスケジュールを引っ張ってたし、『サマーウォーズ』のポスターもあって……。五月下旬からは漫画の作業も始まり、本当は最後の二カ月ぐらいの追い込み時期に手伝うつもりでしたが、ほとんど無理でした。鶴巻に電話して「大丈夫? 間に合わないんだったらさ……」って聞いたんですが、「なんかいけそうです」みたいな返事もあって。四月ぐらいまではずっと「間に合うわけないよ」「もう駄目でしょう」なんて、悲観的なニュアンスを通り越し、あきらめてたような言い方だったのに、最後の最後でポジティブに変わったから、「何が起きたんだろう?」って不思議でした。実際、初号で完成した本編観たら、ものすごく良くなっててビックリしました。本当に最後の二カ月で神風が吹いたんだなと。
インタビュア
オールラッシュに比べてパワフルになってて良かったですよね。
貞本
ええ。スタッフの底力を見たって感じでした。前半戦で余裕のあった時期にできてた本田君のカットとか良い絵がポイントポイントでうまく入ってて、それもすごくいい感じでしたね。計算されてたんだなという感じもあります。もちろん玄人的に見れば突貫で作ったカットはすぐ分かるけど、普通は気にならないだろうという絶妙なバランスで。むしろひどいところも気にならない、そんなことを超えたパワーを感じて、すごく良かったです。
リテイクにはいっさい参加したくないなと思うぐらいですよ。直し始めたらキリがないし、作画にかかわっていないので、どういう経緯で今の状態になっているのか、よく分からない。だとすると直せないし、「あそこ頭身おかしいぞ」とか「ここの肩幅が気になる」とか細かいところ直しても、作品全体の面白さやクオリティがアップするわけではないですしね。初号観た直後の感想は、「いろいろあるけど、なんだか気にならないすごさだよね」って。
インタビュア
熱気のこもったすごいフィルムだと感じましたね。アニメって、やはり熱気を観に行くものなんだという原点を、改めて感じました。
貞本
確かに、スタッフが嫌々やったのか、ものすごいものを見せてやろうと思って絶叫しながらやったのか、やはり画面に出てしまうものだと思います。正直、『破』は脚本やコンテ段階の印象では「つなぎっぽいな」と思ってました。『序』のヤシマ作戦のようにはっきりしたクライマックスもないし、ヤマ場がものすごく均等に平坦に入ってて散漫に感じて、「三部作の真ん中だし、まあいいか」ぐらいの感想でした。
ところが完成したら、うまく説明できないくらいすごいパワーを感じて、これはすばらしいなと。新しいものを見ているインパクトもちゃんとあったし、これはすごいと。予想よりはるかに良いもので、このまま終わって伝説になってもいいと思うくらいでしたね(笑)。
インタビュア
では、『Q』に向けて、何か現時点で言えることはありますか。
貞本
『Q』ですか……。「『Q』は大変だよ」って言われてるだけで、今は記事にできることは非常に少ないですね。
インタビュア
貞本さんなりの、次への期待でもいいです。
貞本
なんだかんだ言いながらも、ここまでは一応TVシリーズの「エヴァの世界」を踏襲した話でしたよね。でも、『Q』っておそらく誰も見たことのないところから話がスタートする。ということは、『新劇場版』を作る意味が問われる章だと思うんです。そういう意味で、ものすごく期待してますし、キャラデザインとしても何かしら新しいものをお見せできたらいいなと思っています。でも、どちらかと言えば、僕の担当分以外のところに期待するって感じでしょうか(笑)。先日、鶴巻が「なんとなく見えてきた」って言ってたから、大丈夫でしょう。
「今、改めてやる意味」って、どうしても考えてしまいますよね。それが「あのときにやり残したもの」だったらテーマ的には後ろ向きだけど、その後の世界情勢の混乱とか、9・11以降とそれに巻き込まれている日本とか、今の若者のオタク文化の変化とか、その辺すべてひっくるめて反映しつつ、「今やる意味」が入ってこそ、『エヴァ』なんだろうと。それはどういうことか、僕もちゃんと考えたいと思うし、それがどういう形で作品に入っていくのかを期待したいと思っています。
PROFILE
主・キャラクターデザイン:さだもと・よしゆき1962年生まれ。山口県出身。東京造形大学在学中に『超時空要塞マクロス』の原画を描いたことをきっかけにDAICON FILMへ参加。卒業後、テレコム・アニメーションフィルムに入社し、ガイナックス設立とともに移籍。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)で初のキャラクターデザインを担当。以後、ガイナックスで『トップをねらえ!』(1988年)の原画、『ふしぎの海のナディア』(1990年)のキャラクターデザインを手がけ、1995年にキャラクターデザインで『新世紀エヴァンゲリオン』に参加。並行して「月刊少年エース」(角川書店)に同作の漫画を連載開始。2009年からは「ヤングエース」に連載。アニメのキャラクターデザイナーとしては、『FLCL(フリクリ)』(2000年)、『トップをねらえ2!』(2004年)、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009)などに参加している。