Evangelion:1.0 CRC interviews

Discussion of the new series of Evangelion movies ( "Evangelion Shin Gekijōban", meaning "Evangelion: New Theatrical Edition"). The final instalment made its debut in Japan on March 8, 2021.

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Joseki
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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 2:54 am

全記録全集:序 インタビュー:井野元 英二、雲藤 隆太
取材・執筆:氷川竜介

CGI/VFX:
井野元 英二、雲藤 隆太(オレンジ)


『序』の映像の随所に埋め込まれ、「REBUILD」に貢献したCG。
オレンジは第4の使徒に加え、モブシーンや自動車の転倒といった
CGとは気づきにくい部分で高い評価を受けた会社である。
一見目立たない部分に注ぎ込まれたその努力とは、どのようなものだったのだろうか?

第4の使徒から始めた作業

インタビュア
まず、簡単な自己紹介からいただけますか?
雲藤
CGアニメーターの雲藤です。第4の使徒が登場するシーンを担当させていただきました。
井野元
オレンジの代表です。八名在籍しているCGアニメーターの全カットの作業チェックする役目を担当しています。

インタビュア
今回の参加のきっかけからお願いします。
井野元
最初にお話をいただいたのは去年の八月末くらいで、まだ具体的にどのカットがCGになるかまでは決まってなかった時点です。庵野総監督を含めて必ずやクオリティを高める方向になるだろうという予想もありまして、ぜひそうした仕事をやりたいという意識で「何でもやります」と言ってお受けしました。

インタビュア
『エヴァ』でCGと言っても、ピンと来ないところもあったのではありませんか。
井野元
最初は「シンジが乗るシミュレーターの画面あたりのカットを」というお話からでしたから、そんなに違和感はありませんでした。CG屋は最初にお話をいただいた時点で真っ先にカット数を聞くものですが、「10カットくらいだろう」と言われたくらいでしたし。最終的には160カットにもなりましたが(笑)。
「ビルはCGかな」とかそういう話はしていましたが、何をどうCGにするかも、それをウチが担当するかどうかもまだはっきり決まっていないという状態でした。
最初は年が明けて三月くらいに、Aパートの第4の使徒から作業が始まりました。TV版の原画も参考にいただきましたが、使徒のデザイン自体が『新劇場版』ではだいぶ違っているんです。触手だけでなく腕のデザインも変わっていますし、頭部も別ものですね。
進め方はまずカラーさんで用意していただいたCGモデルを、おおまかにレイアウトに合わせて配置し、ムービーを作ってチェックしていただき、OKをもらったらCGの止め絵を出力し、「アタリ出し」をする。作画の方ではそのアタリに沿って作業していただくという順番です。第4の使徒関係の作画は早めに終えたいという話でしたので、かなり急いで作業しました。

インタビュア
使徒をセルシェードっぽいCGにしたのはなぜでしょうか?
井野元
詳細な理由は監督判断ですから、あくまで自分の想像ですが、脚の細かい動きが作画だと大変ということと、お腹やコアの中に入っているテクスチャーが作画では難しいからだろうと思います。

インタビュア
使徒についてはどんなリクエストがありましたか?
雲藤
脚のモデルをよく見ると本当にハサミになっているので、「動きはカニを参考にした方がいいのかな」などと思いながら作っていきました。動きをチェックしていただき、意見を聞いてブラッシュアップするという流れです。
井野元
三~四回のやりとりがありましたね。ムチみたいに動かしたいというリクエストもあったので、カニではなくクラゲの触手みたいな動きがいいかななどと、いろいろ変えていきました。第4の使徒はキモ可愛いところがありますから(笑)、ある程度は気持ち悪い感じがいいのかなと。
雲藤
実際に動かして見てみないと、演出陣もピンと来なかったと思うんですよね。作業的に大変なことは大変でしたが、仕上がりを見るといい意味で気持ち悪く動いていたので、やって良かったなと思います。

インタビュア
光のムチは作画だと思いますが、本体のCGとはどうマッチさせたのでしょうか。
井野元
まず原画さんからあらかじめ「こういう動きにしたい」というラフが上がってきますので、それに合わせるようにCGでだいたい本体の動きをつけます。ただ、それでも若干のズレは発生するので、最終的に作画さんや撮影さんのほうで細かい調整をしていると思います。

インタビュア
CGスタッフには「特撮っぽくしたい」という要求があったとも聞いています。
井野元
初号機が使徒を投げ飛ばすシーンでは、最初のテストではバッと投げて使徒が「くの字」になってかなり勢いよくフレームアウトさせていました。
ところが総監督から「釣り鐘っぽくしたい」というリクエストがありまして、完成画面では糸で釣られているような動きをつけています。最初は普通に「投げる」だけだったのが、まるで見たことのないような珍しい動きのつけ方に変わったと思いました。そういう演出は、他の作品ではあまりしていないと思います。

インタビュア
使徒関係で、特に苦労したところはありますか?
雲藤
第4の使徒ではちょっと変わった試みもしています。ボディのところにはテクスチャを乗せていますが、その動きと身体全体の動きのコマ打ちを変えて動かしてみたんです。
基本的にアニメの動きは2Dコマ打ちか2コマ打ちですが、CGだとフルフレーム(1コマ打ち)になるため、作画の動きと違和感が出てしまいます。そこでオレンジでは、レンダリングした後に2コマ打ちにコマ抜きしてなじませるようにしています。
今回の第4の使徒も、全体の動きは2コマ打ちと決まったものの、テクスチャも2コマにしてみたらガクガクして見えて、せっかくのグニャグニャした動きが消えてしまったんです。そこでテクスチャだけは1コマ打ちで身体の動き自体は2コマ打ちにするという、非常にややこしい作業をすることにしました。そこはこだわったところですね。

インタビュア
それだと、テクスチャだけ置いていかれたように見えたりしませんか?
雲藤
普通だとそうなってしまいますが、移動と回転だけはついてくるように処理して解決しました。テクスチャが2コマだと粗く見えるという問題もありますが、1コマにすると滑らかにもなるし、同時に気持ち悪さも出てくるんです。
かと言ってボディも1コマにすると、やはりCGくさく見えてしまう。そんな風になじませ方のバランスは、よく考えたところですね。

インタビュア
あのテクスチャは、それ自体が光っているように見えますね。
雲藤
テクスチャに発光する素材を貼りつけ、撮影段階でさらに光って見える質感に処理しています。しかも半透明で、後のビルが透けて見えるようにもなっています。この複雑な組み合わせを2DDでレンダリングしたので、かなり変わった素材に見えると思います。
何種類もバラバラにレンダリングしてコンポジット段階で組んだものを、さらにコマ数を調整して重ねていますから。頭や腕などパーツも全部バラバラに出して、マスクを切りながら段階をふんで、ていねいに組み合わせて作っています。

インタビュア
下部に行くにしたがって、色味も少し違って見えます。
雲藤
色自体はベタですが、胴体の真ん中に半透明の質感が入っていて、足下にいくにしたがってノーマル色になっているからでしょう。実は設定としては接地面にも足がついてて常に動いているんですよ。ほとんどビルで隠れてしまいましたけど(笑)。

次第に増えていくCGカット

インタビュア
2Dと2DDのコンポジットは、どんな段取りで行われるのでしょうか?
井野元
最終的には背景と組み合わせ、手前に光ものを入れたりエフェクトを入れたりして完成画面にするわけですが、それは撮影会社さん(T2スタジオ)の役割になります。弊社では仮組みまで終えてムービーを出力して監督にチェックしていただき、修正したうえで素材として納品するまでという形でした。
ただ追い込み時期は、弊社で背景も組んでほぼ完成画面に近いところまでもっていくこともありました。

インタビュア
使徒以外では、CGパートのどの部分を担当されたのでしょうか。
井野元
細かい部分ですと、第4の使徒のまわりのビルに3D的なパースをつけて、少しだけズラすカットというのがあります。意外に細かい部分がCGになっているんです。跳ね上がる防護アーマーだけCGとか、引きで撃たれるシーンのクレーンだけCGとか……。
なので当初予定よりも、かなりCGカットが増えましたね。たとえばモブシーンも、繁華街以外は全部CGキャラです。歩道橋を小さいキャラクターが歩いていくところをウチが担当したら、「あれくらいCGでいけるのなら、もっと増やそう」という話になったのではないかと……。

インタビュア
あのシーンはアニメーションとして良いと、監督陣から高い評価があったと聞いています。その動きをつけたのは?
井野元
弊社の都田崇之ですね。通常はモデル一体に動きをつけると、あとはだいたいコピペで対応するんですが、今回は一体一体全然違う動きをつけるようにしてみました。
歩道橋の下には肩で風をきって歩いてるキャラもいますが、木に隠れて見えにくいですね。それぞれ個性がありますので、DVDではぜひよく見てください。いろんなキャラのモデルをカラーさんのほうからいただきましたが、同じキャラでも服の色を変えると全然違う印象になるので、他のカットにも出演しています。工事現場のおじさんやワラワラ歩いている人たち、ネルフ基地内のオペレーターたちも、だいたいCGキャラになっています。

インタビュア
他にはどんなところを?
井野元
かなりいろいろやりましたが、初号機発進シーンや、零号機のエントリープラグが射出されて天井にブチ当たってから落下してくるところや、VTOL機関係も弊社ですね。
VTOL機もかなり早めに発注が来まして、第4の使徒と同時進行で作業していました。
雲藤
最初はあれの三分の一くらいの数でしたが、「魚群のようにして欲しい」と言われて増量しました。細かいところではネルフ本部のドア関係や、地下のエスカレーターもそうです。それと車輌関係ですね。第6の使徒が放ったビーム攻撃で吹っ飛ばされる装甲車をやりました。光ってしまって、よく見えないんですけど(笑)。

インタビュア
それも監督陣に評判の良かったところですね。
井野元
ありがたいことですね。道路から落ちる細かい車など、車関係もほとんどCGです。車種の選定にも総監督のこだわりがありましたね。一般的にCGだとどうしても軽さが抜けないため、それが理由でリテイクになるケースが多いんですが、庵野総監督は逆でして、「軽い感じがミニチュアっぽくていい!」と言われ、非常に新鮮でした。
あと道路がガシャンと変形するところなど、本来作画だったカットがCGに置き変わった部分もいくつかあります。たぶん、そこにCG的な正確さが欲しいという理由だったのではないかと思います。

ウソをついてでも
演出の狙いに近づける


インタビュア
全体的にCGで物量を増やす方針もあったようですが。
雲藤
工事中の車輌関係、巨大な重機が数十台出てくるカットなどがCGですから、確かに物量中心ですね。電車関係も2カットやっています。ディーゼル車のDD51がずんずんと迫ってくるカットは、実はナンバリングが千いくつから千いくつまでというルールのあることが完成後に分かりまして、DVD用にはナンバーを変えています。
電車のカットでは庵野総監督にオレンジまで来ていただき、直接レイアウトをリアルタイムで詰めることもしました。最終的にはカラーさんでさらに調整するというかたちになりましたが、電車をもう一両こっちに置きたいとか、レールをもうちょいこっちにしたいとか、微妙に配置を調整されていたのが印象的でしたね。電車カットはデータがかなり重くなってしまい、レンダリングにも二~三日かかるほどになりました。パーツごとに分けてレンダリングしないと、マシンが悲鳴をあげてしまうくらい大きなサイズなんです。

インタビュア
その成果で、電車のカットはものすごい迫力でした。
井野元
あとはEVA電車の一連も担当しましたが、あれもなかなか苦労しました。線路を作って電車を置くと、微妙に配置が合わないんです。特にやや望遠レンズ気味のレイアウトにして奥に合わせると、手前まで来たときに3Dのレンズではウソがつけないので、どうしても合わなくなるんですね。
手前に来るあたりは実は脱線して線路に乗り上げたりしていますが、そこはウソをついて違和感が出ないように工夫しています。

インタビュア
見た目の気持ちよさの方を正確さよりも重視されているんですね。
雲藤
レイアウトには演出上の「狙い」がありますから、ウソをついてでも狙いどおりに仕上げるという方向性です。「ヤシマ作戦」はトランス類も電車に附随するものとして丸ごと担当しましたし、山を登っていく変電車両とかあのあたりも弊社です。初号の数日前にようやくアップし、オレンジでは完結しないで、最終的にはT2スタジオさんで光と影のコントロールをしていただいたので、ギリギリになりました。それでもフィルムになるんだと感動しました(笑)。
井野元
あとは初号機から飛び出すプログレッシブナイフなど、あのへんの細かいアイテムも意外とCGだったりします。なじみ過ぎて気づいてもらえないものが多くて残念です(笑)。
スタッフが一番苦労したカットとなると、やはり最初に引き受けたシミュレーション画面ですね。モニターがたくさん出てくるんですが、それぞれ違う映像が映っているのでモニターの数の分だけ映像があるため9カット分やっている感じの作業量になり、さらに出力したものを1カットに合成するのにも時間がかかりました。
他には美術のアタリ的なものをアウトラインでいくつか出してはいますが、最終的にCGで作ることになったものも多いです。鉄塔が並んでいるカットは鉄塔だけがCGで、電線は作画という組み合わせです。

インタビュア
演出側とのチェックはだいぶ密だったと思いますが、どのようにして進められましたか。
井野元
最初のうちは週イチでスタジオカラーさんにお伺いしてチェックしていただきましたが、後半は時間がなくなって、メールや電話が中心になっていきましたね。CGI監督とはメッセンジャーでリアルタイムにやりとりしていました。

地味な動きが
連番で大きなアクションに


インタビュア
完成品をご覧になって、ご感想があればぜひお聞かせください。
雲藤
全体的な統一やなじませ方は、初号フィルムで初めて確認することになりますが、率直によくできていると思いました。自分たちの担当したCGパートにしても、今までのアニメとはまったく違う使われ方をしていて良かったと思います。
慎重に質感をなじませていたので、どこがCGなのか多くの方は分からなかったと思いますが、アニメ表現のなかでCGのひとつの可能性、方法論が新たに加えられた気がしました。もしその助けになれたとしたら、これはやりがいがあったなと。

インタビュア
印象的なカットはありますか。
井野元
背景ですね。クレーンがいっぱい並んで電柱が立っている雨のモヤのシーンが良かったです。手前の車と向こうのクレーンはCGだったりしますが、作った弊社でも分からないくらい作画と美術とCGがなじんでいましたね。非常にきれいに仕上げていただいていると思います。

インタビュア
最初よりもだいぶCGの配分が増えたわけですが、それについてはどうでしょうか。
井野元
監督陣も若干手探りをしながら、「意外にCGでいけるじゃないか」と、だんだん方法論を決めていかれたんだと思います。僕たちにしてみれば、実はどれだけCGで戦えるのか、『エヴァ』ファンは作画じゃないと文句を言うかもしれないとか、当初は不安な部分もありました。ネットのレビューを読んでも、特にCGの悪口は言われてないようなので、最終的にはうまくいったなと安心しました。
雲藤
確かに少し不安はありましたね。今回始める時に改めてTVシリーズを観ましたが、作画ならではの動きや全体的な質感が非常に良くできている作品ですよね。CGになると良くも悪くもまず質感が変わってしまうので、そこで反感を買うんじゃないかと心配しました。結果的には、すべてうまく収まった気がします。

インタビュア
しめくくりに、参加されて良かったことがあればお願いします。
井野元
実作業の最中は、アクションというよりどちらかと言えば地味めな作業を物量多く、そしてていねいに動きをつけるという印象がありました。ところが全体をまとめて観たとき、それぞれ素晴らしいアクションに仕上がっていて「これは新しい発見だ」と驚きました。
ひたすら派手に動かす方向性でやったとしても、今回の映画にはかないません。そのあたりにも、今後はこだわっていきたいと思います。
雲藤
自分はカット単位の担当で、全体の流れを知らずにやっていましたから、すごく抑えめに感じられたんです。でも、その個々のカットがつながったとき、非常に大きな動きになるということなんですね。
CGアニメーターはどうしても自分のカットだけを最大級に持ちあげよう、派手にしようとしがちですが、今回の仕事では違っていました。あの世界の中での動きに、すべてが収まったという気がします。
井野元
次の『破』ではもっとCGカットが増えてくるような気がします。もしオレンジが引き続き関わることができるなら、さらにがんばりたいと思います。
(二〇〇七年十一月五日/スタジオカラーにて)

PROFILE

CGI/VFX:
いのもと・えいじ


1970年生まれ。大分県出身。オレンジ代表。サテライト製作の『創聖のアクエリオン』ではCGIアニメーション監督を担当。その他、『ノエイン』(サテライト製作)、『ブラック・ラグーン』(マッドハウス製作)、『ハイランダー』(マッドハウス製作)、『攻殻機動隊S.A.C.』(プロダクションI.G)など、ハイクオリティ系の作品を多数手がけている。

CGI/VFX:
うんどう・りゅうた


1976年生まれ。千葉県出身。CGアニメーター。第4の使徒の登場シーンを中心に担当。

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 3:12 am

全記録全集:序 インタビュー:佐藤 敦紀、渡部 韻
取材・執筆:氷川竜介

CGI/VFX:
佐藤 敦紀、渡部 韻(モーターライズ)


『序』における「REBUILD」は、TVシリーズの素材を流用することに留まらない。
止め絵主体で表現されてきた使徒を改めて3D-CGで変形させ、驚きを発生させたのも、その一環である。
その表現は四次元立体の三次元投影がベースとなり、さまざまな試行錯誤を経て現在のかたちとなった。
この複雑なる課題に挑戦したのは、庵野秀明・樋口真嗣らの作品を多く手がけてきたモーターライズである。

心意気を発信するための「特報」からスタート

インタビュア
モーターライズが『新劇場版』に参加するきっかけは何だったのでしょうか。
佐藤
まず、ウチにいる樋口真嗣が「ヤシマ作戦」パートのコンテを描いたのが発端でして、これまでも何となくそうだったんですが、樋口がややこしいコンテを描くと、ウチにまわってくるというパターンがあるんですね(笑)。
当初は新作オープニングをウチがCGで担当するという案もありましたが、そのカット自体がなくなったので作業もなくなりまして、基本的には後半の第6の使徒戦を中心に担当しています。

インタビュア
他には特報と予告編も担当されたそうですが。
佐藤
最初の特報は基本的に僕が組みました。急に年末にかけるという話が出たので、あわてて打ち合わせをした記憶があります。
最初は画コンテを全カット薄く並べてそこに文字を出すとか、ミサトさんが出てきて「サービス、サービス」って言うとか、幻に終わったアイデアもいっぱいありましたね。

インタビュア
庵野さんが描いた文字だけのレイアウトは、昨年末に宣伝関係で見ました。
佐藤
そう、いずれにしろあの時点では文字情報しかなかったわけです。本当に「序章的なもの」に見せるのと同時に、それなりに中身を伝えたいものにしたいなと思って、最初はこちらで組んでみましたが、それから庵野さんの細かいデザインチェックが入り始めましたね。
音も最終的にはオケ(オーケストラの調律音)になりましたが、最初は「『式日』の時に録った電車の音がいいかな」なんて話もありました。

インタビュア
その時点からすでに電車へのこだわりが……。
佐藤
そうですね。あとその時話してて印象的だったのは、「無理して作るよりは、何年かかるか分からない作品の序章だから」という話でした。つまりあれは『序』の特報ではなく、新劇場版シリーズ全体の幕開けを告げる特報にしないといけない。あの時点ではまだ『序』というタイトルすら決まってなくて、「1.0、2.0、3.0、4.0」って数字を並べたレイアウトで作ったくらいですから、最終的には『序・破・急・?』の全部を包括した特報になりました。

インタビュア
画が入ってきたのは予告編からですよね。
佐藤
予告第一弾のときは僕がラフでつないでみましたが、庵野さんに見せたら「こうじゃない」ってダメ出しが出て、結局監督と編集の奥田君がつなぎ直したものになりました。
第二弾に関しては、もう最初から庵野さんに最初からお任せしたかたちで、基本的には庵野さんの編集ですが、そのデータをもとに僕が本編集と音作業をするという分担になりました。

インタビュア
「『エヴァ』をもう一回やる」と聞いたとき庵野さん、樋口さんと様々な作品を担当されてきた佐藤さんとしては、どう思われましたか。
佐藤
正直言えば、僕としても「ホントなの?」って戸惑いがありました。二十年、三十年経って他の人がやるならともかく、まだ十年ちょっとしか経っていないときに庵野監督自身がリメイクするってアリなの? そういう気持ちでした。
もちろん巷で言われるような商業主義的な事情ではないことは明らかですし、樋口ちゃんの出した画コンテを見て「ああ、これってかなり本気だな」という意気込みも伝わってきました。とはいえ「ホントにうまく行くのかな?」と、半信半疑な状態でもありました。

インタビュア
完成作品のある今と違って何もない時期ですから、やはりそうなりますよね。
佐藤
ええ。それで特報では、大月さんともお互いまったく同じ気持ちなのを確かめたことがあります。世間は絶対にこのリメイクをナメてるはずだと。そうじゃなく、これは本気なんだと。それをまず発信しないといけない。実際、最初期段階ではもっと商業っぽい姿勢の特報プランもありましたからね。
でも変に焦ることなく、デンと構えて「これだけすごいことをやろうとしてるんだぜ」ってメッセージを伝えようと、熱っぽく話しあったことを覚えています。

使徒の表現に「四次元立体」をテスト採用

インタビュア
さて、画コンテができてからCGの実作業に入るまでは、どれくらい時間があったのでしょうか。
佐藤
製本された画コンテ台本ができてきたのは確か年明けのはずですが、コンテを描いてる最中から樋口ちゃんが「こんなことを考えてるんだけどさあ」なんて言い出すわけですよ(笑)。その時に出た話のひとつが第6の使徒に使った「四次元立体」です。実際に動いてるのは、見たことはありますか?

インタビュア
いえ、話自体は取材で何度か出てきましたが、さすがに実物は。
佐藤
ものすごく不思議な動き方をするんですよ。樋口ちゃんもあの「四次元立体」を頭に置きつつコンテを描いていますし、僕らも実験映像を経てCGにするべくテスト映像の制作を進めて、それを見せながら打ち合わせを重ねたんですが……。

インタビュア
うまく行かなかったんですよね。何が問題だったのでしょうか。
佐藤
結局、コントロールしきれなかったということなんです。鶴巻さんはなかなか諦めきれず、「コアの回りにガードみたいな形で“四次元立体”を入れたらどう見えるかな」などいろいろ粘ってくれたんですが、結果的にはイメージしか残っていません。最終的な映像は、「四次元立体風のよく分からないものがクルクル回っている」というものでしかないんですよ。

インタビュア
そもそも「四次元立体」とは、どういう構造をしていたんでしょうか。
渡部
ふたつの立方体が互いに絡み合っているようなイメージです。それが回転すると、このように見えます。
佐藤
厳密には別々のふたつの立方体ではなく、四次元空間内ではひとつの立方体を構成していることになります。それを三次元に投影すると、このように見えてしまうんだということですね。

インタビュア
三次元の物体に光を当てれば、二次元平面には投影像(シルエット)ができるので、それと同じ理屈ですよね。
渡部
ええ。動きも捉えどころがなくて、とても面白いんです。ただ、その動きや形状をコントロールすることが非常に難しくて。多少ウソをついて三次元の立体で「それらしい」動きを表現できないか、など色々試してはみたのですが……。
佐藤
映像化は決して不可能ではないと、今でも思っています。でも、それをやるためには完成形をきちんと考えてから、そこから逆算して数値を導き出せるような方程式を立てて……という手順からやらないと無理なんです。

インタビュア
どのくらいの期間、試行錯誤されてから、無理と判断されたのでしょうか?
渡部
テスト自体は、二〇〇六年内にはもう始めていたと思います。
別件の作業も入ってしまったので、二月に一度作業を中断し、再開したのが五月のはずです。四次元立体ではなく今の形になったのも同じタイミングだったと思います。

ラフ原画を描いて
イメージを詰める


インタビュア
それでは本編で使われたあの第6の使徒は、どのような手段で作られたのでしょうか。
佐藤
1カット、1カットすべての形態に対してモデリング作業をやっています。
渡部
演出的な目的を達成するには、結局はていねいに作るしかないということになりました。
佐藤
あの変形って、そもそも樋口真嗣の画コンテ自体がイメージ先行で、ラフもいいところなんですよ(笑)。だから、そのまま信用することはできないし、僕らの立場からすれば「どうとでも作れてしまう」ということになるんです。画コンテを受けた監督陣が最終的にどんな形態、動きが欲しいのかも分からない。正解がないんです。
通常、CGも含めて物をつくる作業は、現実世界にある正解か、何か近しい見本に向かって落とし込めばいいという風になります。でも、これは見本がまったくない。そこがきつかったです。
渡部
そういった状況で、まず僕らの方から提案して戻して……とキャッチボールを始めてしまうと時間がかかり過ぎてしまうので、「まず監督が欲しい形、動きをラフ原画で描いてください」というお願いをしたんです。

インタビュア
これがそのラフ原画ですね。タイムシートまで打ってありますね。
佐藤
これは鶴巻さん自身が描かれたものだと思いますが、結局、アニメーターが演出的な意図を再現する手段としては、それが一番手っ取り早いんですよ。
渡部
そのラフ原画をもとに、カットごとに動かしやすい形の3D-CGモデルを組み、まず時系列に沿って、そのカットで「決まり」となる幾つかの代表的な形に変形させます。するとソフトウェアがその「決まり」と「決まり」の間の形、つまり中割りを計算してくれるので、それらの動きを一連の動画としてつないだところで、まず見ていただいて、「このフレームの時の形がよくない」といった指摘を受けたり、逆にこちらから「こういう形を経るような動きはどうでしょう?」と提案したりもしながら、細かく修正を加えていきました。

インタビュア
それは1コマずつ修正を加えるということでしょうか。
渡部
モデルの変形だけではこちらの意図した中割りが得られない場合は、極端な話、ワンフレーム毎に別個のモデルを作成したカットもあります。
佐藤
「すべてのカットに対して、変形を精査するためのモデリングを個々に行う」ということが制作の前提になりましたので、逆にこの時点では他のカットとの整合などはあまり考えないようになり、ラフ原画もそれを前提に描いていただいています。
見た目の変形とその推移については、それほど破綻しないようにラフ原画段階ですでに練られているので、こちらとしてはそれを設計図に見立て、忠実に作れば形は実現できるわけです。これは非常に助かりました。
ただし手描きの原画ですから、立体としての中身はまるで存在しないわけですが、それは3Dベースで作らせていただきました。

インタビュア
他部門の進め方から察するに、かなりチェック、チェックで追い込むかたちになったのではないでしょうか。
佐藤
ええ。この最初のカットの変形にしてもかなりの試行錯誤があって、最初と完成品ではだいぶ違っていますね。
庵野さんも初見ですでに「ああしたい、こうしたい」という要望を出し始めましたが、次第にそれが増えていくんですね。ですから打ち合わせをするたびに修正結果を見せるようにして、さらに意見を反映した修正を加えて成長させていくという作業を、三~四ヶ月は積み重ねていたはずです。
渡部
手順としては、原画に合わせたモデルをタイムシートどおりに並べてお見せするところからすべてがスタートします。そこで初めて「なるほどこう見えるのか、だったらむしろこうなった方が良いよね」という意見が出てきて、そこからがむしろ本当の始まりと言っていいんです。あとは打ち合わせが重なるにつれて、だんだん精度を上げて詰めていくような感じです。
佐藤
時には全フレームに番号を打ちこみ、いったんバラバラに分解してから、もう一回シートを打ち直してタイミングを変えるということさえありました。
人物の描写や芝居は打ち合わせのときの「こうして」というだけで意味が通じますが、この第6の使徒の場合は前例がないため、言葉で通じる限界があるんですね。ニュアンスだけでやりとりしていたら絶対に終わらないと思い、チェック用のQuickTime Movieをネットで送ってチェックしてもらうという段取りではなく、直接鶴巻さん、庵野さんの目の前で見せて会話しつつ、その場で詰めるようにしました。

インタビュア
最初にその方法で煮詰めたのは、やはり一番目の変形をするカットでしょうか。
佐藤
そうです。お客さんが最初に目にしてショックを受ける変形ですからね。一本目の予告でも、この変形を入れるかどうか迷ったくらいですよ。結果的に庵野さんが予告からは落としましたけど、その判断は適切だったと思います。

変な使徒ゆえに、
アイデアが盛り込める


インタビュア
具体的にどんな受け答えをして煮詰めていったのか、完成映像を観た今だとそのプロセスにものすごく興味をひかれます。
佐藤
ともかく最初のうちは、鶴巻さん、庵野さんとコミュニケーションを深めるための土台が必要だと思い、映像をひたすら作っては出すようにしました。
渡部
タイムシートに沿って並べたものを見た庵野監督が口にされる「ギュイーン!」とか「バシャン!」といった擬音で、初めて厳密なタイミングが見えてくるといった具合です。
佐藤
最初の変形が終わって元の姿に戻るカットも、さんざん話し合いましたね。ゆっくりと戻っていくのか、ツノになっていたところも戻って変形するのかとか、解釈はいくらでもできるんです。
こちらもいろいろ考えましたが、最終的に庵野さんが「『カンッ!』って感じですよね」と言って決まりました。庵野さんも最初から答えがあるわけではなく、テストを見ながら答えを探っていたようです。

インタビュア
それはこの取材で全工程の方から言われる、『序』に共通の進め方ですね(笑)。
佐藤
もちろんそれは必要なことなんです。でも試行錯誤があまりに多いと、実際に手を動かしている作業者は心が折れることも多いんですよ(笑)。こっちはこっちで、「ここを回すと面白いですよ」とか必死になって提案を出して食らいつきました。そういう相乗効果で良くなっていけば、最終形に早く近づいていくものだろうと。
渡部
でも、僕としては佐藤が「回したほうが面白いんじゃないの」なんて言うのを横で聞きながら「えーっ!」って思うわけですよ(笑)。一方、庵野監督からは「回すくらいなら、ひねった方がむしろ面白くなるかも」と返ってきて、さらに「ひねりが中心に行くほどゆっくりで、外側へ行くほど速くなるとか」「それは気持ちいいですね」なんてどんどん会話が弾むので、こっちは「これは大変なことになったぞ……」と青くなって聞いていました(笑)。
佐藤
逆に言えば、あの使徒って変なヤツだから、その場で思いついたことが盛り込めるわけです。つまり、それほど整合性を気にしなくていいのが最大のメリットです。
たとえばパーツが分かれるところに、レンダリングの都合で変なノイズが入ってしまったことがありました。CG技術者的にはもちろんNGですが、鶴巻監督に見せたら「これは庵野さんが絶対に喜ぶから、このままにしましょう」という判断が出たり、意外な面白さがありましたね。完成品をよく見てもらうと、上下に割れる瞬間、映りこんでいる空が……。
渡部
表裏、逆転してしまうんです。あるコマで表だった空が、別のコマでは裏がえってしまう。見た目上は明らかなレンダリングミスですが、「とりあえず変形の動きだけ見てもらおう」と思ってミスのあるまま出したら、それがOKになって。

インタビュア
光や空間を歪めてしまう使徒だから、それもアリなんですね。
佐藤
こちら的には狙ってないのに、演出的にはいいからというのには驚きました。こんな進め方でしたから、うまくいくかどうかは最終画面を見るまで不安もありましたね。

インタビュア
定期的なチェックはどのような進め方でしたか?
佐藤
毎週金曜日の夕方にはカラーへ行って、その週のアガリを見せるということになっていました。その場で修正を加えていって、OKならラッシュにはめ込んで更新してもらうわけです。

使徒に主線を入れてキャラにする

インタビュア
制作の進行具合としては、どんな感じでしたか。
佐藤
スケジュール的には、「この変形に一番時間がかかるはずだ」と予想した1カット目が思ったより早く上がってきたので、「これなら行ける」と思って次から次へと出していった感じです。[/b]
カレンダー的には一月、二月時点で通常形態に対して四次元立体などを試しつつ、形態や質感をテストして一時中断し、質感などは最悪あとからでも間に合うだろうと思って、再開後は変形を優先的に進めていったんです。お尻が迫ってきたときには、クレイモデルのような質感のアニマティクスを次々に出して時間をつなぎつつ追いこんでいって、ウチの担当分の映像が全部完成して、ゴールになったのは八月頭でした。

インタビュア
もっとも苦労されたのは、どの段階の作業になりますか。
佐藤
やはり手描きのレイアウトと整合性をとるところの作業ですね。最終的には鶴巻さんが中心になって追い込んでもらいました。最後のレイアウトがあがったのは、確か七月末のはずですよ。スケジュール的には厳しいですよ。五月段階で僕は「これ、絶対に九月には間に合わないよ。年末公開でしょ」なんて言ってたぐらいですからね(笑)。きっと僕だけじゃないと思いますが。

インタビュア
2Dのデジタル撮影との連携は、どのようにとったのでしょうか。
佐藤
最終的にセルや背景と組むのは撮影さんの役割で、モーターライズでは素材を出す作業までで、ウチでは完結していません。『イノセンス』のときはウチで完結させてフィニッシュを渡していました。この辺は作品ごとにやり方が全部違いますね。最初は正直言って「こっちで仕上げまでやってもいいんじゃないかな」と歯がゆく思う部分もありましたが、完成品を観たら、流れ的にはあれで大正解だと思いました。

インタビュア
セルと組むという点では、第6の使徒には主線(アウトライン)を乗せていますね。その実線もCGなのでしょうか。
佐藤
これにしても、最初は主線がなかったんですよ。でも、「使徒はキャラだ」ということになって、後から主線を入れるようにしました。確かにそれまで非常にCGっぽく見えていた使徒が、主線を入れたとたんにアニメになったんですよ(笑)。
アウトラインを入れること自体は、CG技術的にはすでに確立されているものです。しかし第6の使徒の場合は、こういうモデルだからこそやりにくいという部分がありましたね。レンダリングの都合で、どうしても出したくない線が出たりするので、それをわざわざ手作業で消す必要があるんです。
渡部
一番それが目立ったのは、複雑な重ね合わせのところですね。線の重なり具合や太さが微妙になるので、CGソフトに「お任せ」では気持ちいい線が得られないんです。そういう場合は1コマ1コマ手で描き直すことになりました。
佐藤
そういう問題は、僕らもある程度予想していました。そもそも主線を入れること自体、背景に乗せたときに浮いて見えたり前後のカットと質感が違って見えたりするのではないかと、ものすごく心配しました。最初は「やめようよ」って反対したほどです。だけど結果的には、乗せて大正解。「なじんでるじゃん」と思ったので、きっと撮影さんの方で、かなり手を加えてくれたんでしょう。
渡部
当初主線なしのまま作業を進めていたのは、第6の使徒は背景の映り込む面積の非常に大きい物体なので、背景が映り込むことで逆に背景になじみ、結果、CGっぽさも無くなってシーンに馴染むのではないか、という計算でした。でも、「使徒はキャラである」と判断がくだった時点で、逆に背景になじんでしまったらまずいだろうと。その点でも実線を入れる意味が出てきたんですね。
佐藤
「電柱もビルもキャラ」ですと、全部実線を入れることも決まりましたから。ただ、電柱はともかく、今回のビルや使徒は、最初はそのつもりじゃなかったかもしれませんね。五月か六月あたりに、突然「入れてください」と言われた記憶がありますから。別に今さら驚きはしませんでしたけど(笑)。

インタビュア
だいたいどれくらいのやりとりをすれば、OKが出るのでしょうか。
渡部
最初と次のカットの2カットは、チェックを四回ほど重ねて初めてツメに入ることが出来ました。それ以降は概ね一~二回でツメに入ることが出来ました。ただ「あとはツメですね」となってからOKになるまで更に二回ほどかかってしまいましたが……。
佐藤
ちょっと時間がかかったのは、シャンデリア風に展開するやつと、防御形態と呼ばれているやつですね。あとは比較的順調にいきました。
渡部
最初の頃は、ラフ原画にない中割りはソフトまかせにした状態、つまり自分の解釈をいっさい加えていないものを見ていただくところから始めていたので多少遠回りではありました。でも、そこからチェックを経る毎に、動きの無駄が省かれ、また面白さが加味されていくわけですが、そのプロセスを間近に見ているうちに「なるほど、こういう動きが『気持ちいい』んだ」という方向性を掴ませていただくことが出来ました。
私も庵野監督のアニメで目覚め、鶴巻監督の作品で育ってきた人間の一人なので、「掴む」というよりは「思い出す」と言った方が正しいのかもしれませんが。そのおかげで、スケジュール中盤以降は、多少自分の解釈を加えた段階からスタート出来るようになりました。
佐藤
基本的には見て何か言ってもらって、納得した上で前に進める人たちなので、それは充分理解してます。ですから、こちらとしてはまず見せないことには始まらないんです。見て何かコメントしてもらって変えてみて、自分の手で何か触ったことで達成感を得る、典型的な吐き出しタイプという感じですね。

カラーのロゴは
特撮の合成素材で作成


インタビュア
使徒以外にも、そんなやりとりの中で煮詰めたCGカットはありますか?
佐藤
CIの仕事もそうでしたね。

インタビュア
映画の冒頭に出てくるスタジオカラーのロゴですか?
佐藤
そうです。あれも最初は「とりあえず作ってみて」って言われていくつか作って見せたら、「全然こうじゃない」って話になったんです。じゃあ、「どんなものが作りたいんですか?」って庵野さんに聞いたら、「『ウルトラマンタロウ』みたいに」なんて言うんですよ(笑)。
日本エフェクトセンターに当時の合成素材が残っていたので、「こんなものがあるよ」とビデオに録って見せたら、もう大喜びで(笑)。「全部見せて」ということになったんですが、なにしろ十七時間分もあるので、とりあえず抜粋版から選んで欲しいと。そしたら「もう目移りして、どれがいいかわからない」って(笑)。それで僕の方でいくつか選んでラフを作ったんです。紆余曲折あって、最終的にはあの「帰ってきたウルトラマンの変身パターン」プラス「ウルトラマンタロウのメインタイトル」に落ち着いていくわけですが……。

インタビュア
私が最初にオールラッシュを拝見したときのバージョンは、『レインボーマン』の色の輪が拡大するやつでした。思わず「シパパパパパ!」って効果音が反射的に脳裏にセットされましたが……。
佐藤
あれも相当気に入ってましたね。俺的にも大好きだったんですが、光明滅の問題があるかもしれないという話が出て取りやめになったんです。

インタビュア
やはり庵野さんは『ウルトラマンタロウ』に格別な思い入れがあるのでしょうか。
佐藤
さんざん言ってましたね。「『エース』のエフェクトはダメっす。あれは品がない、やっぱり『タロウ』っすよ」って。俺にはその違いがわからないんだけど。
渡部
そういえば、庵野さんの机の上には『タロウ』のDVDがズラリと並んでました。

単純な形状に複雑な反射像を
入れる手法


インタビュア
第6の使徒の話に戻って確認させてください。本体に周囲の風景が映りこんでて美しく感じましたが、あれはアニメの背景の反射像でしょうか。それだと2Dのものを3Dに貼ることになると思うのですが……。
渡部
あれは背景の素材をいただいてCGソフト上で正しい位置に配置し、「おそらく実際にはこう見えるだろう」という映り込み素材を作った上で、それを重ねています。
でも、そうすると三次元的には正しくなっても、見た目がきれいにならない場合が出てくるんですね。それで、外側には映りこむ素材、中には向こう側のものが反射して映りこんだ素材、屈折して映りこむ素材など四種類の素材を重ねあわせてみて、その度合いを調整して一番見栄えのする形を探る感じで作りこんでいきました。

インタビュア
複数の映像を重ねて表現したものなんですね。
渡部
基本はそうです。映りこみ四素材のほかに、内部の変形を強調する為の乱反射用の素材が二種類、あとはラインや太陽光もありますし、下からのライトアップがあるカットでは二次的な光と影が要求されるのでそれ用と、素材はかなり多岐にわたっています。
あの使徒の正八面体って、巨大なわりにものすごくシンプルな形ですよね。それをシーンにあわせた正直なライティングだけで表現しようとすると、平板で小さなものに見えてしまう危険があります。そこで、まず自然なライティングの素材を作成し、それとは別に、更に各面(正確には法線)毎に色分けした素材を用意しておいて、そこから面ごとのマスクを作り、あとは最終的な合成時に「ここの面とここの面を見せたい」というケースに応じて、そのマスクを利用しながら陰影を調整して立体感を出していく手法をとりました。そうやって各面の見え方を整える作業は、ほとんどすべてのカットに加えています。

インタビュア
モデルが1コマずつ変形する場合は、それに対応するマスクも全部出力する必要があるのですか?
渡部
マスクの連番で自動的に出せるようにしておいて、あとはそれを読み込めば、各フレーム単位でも対応できるよう処理しました。

インタビュア
CGもセル扱いとして撮影工程でコンポジットしたと聞いています。使徒への映りこみはモーターライズ側で処理して映像として追い込んだ状態で渡したのでしょうか。
佐藤
そこもウチとしてはちょっと悩んで、鬼塚くんと相談したところです。コンポジットで潰して渡すべきか、全部バラ素材で渡すべきか、誰がどう処理するのか役割分担の境界が曖昧なところですからね。
渡部
とりあえず、ウチとしては全部「使徒」としての要素をいったんまとめる方向でお渡しし、「もし何かあったら、素材を請求してください」ということにして、予想される素材は保存しておきました。実際、やはり後から素材要求もかなり出てきました。

インタビュア
なるほど、二段構えなわけですね。そのほうが効率もいいでしょうね。
佐藤
作業進行的には、ウチとしては背景があがってこないと反射の素材も仕込めないという、後工程の関係になってました。無理を言って一部の背景のアガリを早めてもらいましたが、全体的にはどうしても背景はスケジュールの後半になりがちでした。そこで「動きはOKが出てるので、背景待ち」という状態になったり、OKの背景を使ってレンダリングまで進めたのに「背景のここ、もうちょい直そうか」という判断が出て、使徒もやり直しになったり、いろんなことがありました。
渡部
それと実際に動いている使徒に背景の映りこみを入れたものを見ると、面の違いや動きのスピード感がより明確になってくるので、どうしても欲が出るわけです。たとえモヤでも、映ってさえいればスケール感が出てきますからね。ですから、映りこませるサイズを変えたり見え方を変えてみたり、はっきり見せたり逆に見せなくしたり、やればやるほど印象が変わるんです。
そういう時に先の話に出たマスクを使って各々の面の調整をして、どこをどんな具合で見せると良くなるかという追いこみもやりました。

細部まで手をかけ、
「人」になった第6の使徒


インタビュア
第6の使徒を見せる上で格別の苦労があったのは、どのカットでしょうか。
佐藤
特に苦労した記憶があるのは、撃たれて炭化したトゲトゲがバッと出てくるカットですね。
あのタイミングがうまくとれなくて、もっとゆっくりと動くようにとかいろいろ試してみました。やられたときの質感も、最初とりあえずアニマティクスでいい加減なクレイモデルっぽい質感のものを出したら、「これがいいです」と。
渡部
「モノリスっぽくていいですね」なんて言われました(笑)。

インタビュア
結局、変形のパターンは全部で何種類になりましたか?
渡部
ラミエル自体は全部で50カット弱ありましたが、変形自体は……。
佐藤
まず最初の変形シーンで二回、ドリルのシーンと、目をそらすためにバンバン撃ち始めたときにシャンデリアになって、次に防御形態になり、薔薇みたいな形態になって、最後に派手にやられて花が開く形態。大きくは全部で七つではないでしょうか。

インタビュア
最後にやられたときには、血のようなものがしたたりますが……。
佐藤
あれは鶴巻さんの判断で、早い段階で作画に決まりましたね。
渡部
あれが作画になったことによって人間の手が加わって、第6の使徒もアニメの世界に仲間入りさせていただいたという気がしました。単独だと、どうしてもCGっぽく見えてしまうんですよ。
佐藤
CG臭さは僕も危惧していましたが、決め手はやはり主線でしたね。シャンデリア状に変形するカットだったと思いますが、テストで乗っけてもらってみたら、「うわっ、アニメだ」って。たまたまいた樋口ちゃんにも見せたらゲラゲラ笑い出して、「これ、いいよ!」って盛り上がりました。
渡部
キャラ扱いという主線を入れる意味をより深く実感したのは、庵野監督に「この人は基本的に攻撃することでしか自分を守ることができないんです」と説明されたときでした。それまで漠然と捉えていた使徒の特徴的な動きや佇まいも、人であれば「性格」の表れとしてイメージしやすくなります。それ以来、第6使徒は僕にとっても「カワイイ子」です(笑)。

インタビュア
TV版の「青いイメージ」も引き継いでいます。
佐藤
それはTV版を意識したところですね。他に苦労したというと、上下分かれる前のカットで、いきなりキューブ状のものがコアに向けて整列して見えるところですね。イメージがなかなかつかめませんでした。
それと第6の使徒には、全景を見せるカットが当初はそれほど用意されていませんでした。何が起こってるのかが分かりにくいという理由で、急遽全景カットを増やしたはずです。ただし、それは八月に入ってからでしたね。
渡部
「TV版にあったようなスリット光が走るカットを加えましょう」ということでした。
佐藤
これだけ手のかかった第6の使徒ですから、模型業界が完全変形をいつ再現してくれるのか、僕たちは楽しみにしています(笑)。あのゲッターロボでさえ完全変形が実現できた世界ですからね。

インタビュア
クライマックスのヤシマ作戦はナイトシーンですが、夜景なりの苦労はありましたか?
佐藤
ナイターの暗さに関しては、かなり追いこんでいたはずです。劇場によっては、暗すぎてよく見えなかったかもしれませんね。
打ち合わせのときには、「空はかなり明るくするので、黒く出しても大丈夫です」という話でしたが、実際にあがってきたら思っていたよりも暗めでしたね。特に電力を集中させてから以後は、意図的に明度をギリギリまで抑えていたようです。
渡部
あれは鶴巻さんの演出意図でしょうね。
佐藤
そうそう、1カットだけウチの担当で内部で完結したところを思い出しました。「電気が消えていく日本列島」です。あれは直前にウチが樋口ちゃんの『日本沈没』をやっていた流れで、こっちに振られました(笑)。

インタビュア
あれは地図のような素材ですか、それとも地球儀のような立体ですか?
佐藤
球体に日本列島を貼りこんでいます。そうしないと、ああは見えないので。最初はもっとはっきりと球体に見えていましたが、列島の全体像が見えにくいという理由で変更しました。
電飾消すだけだからこれは楽なカットだと思ってたら、全然そんなことなくて、やっぱり苦労しましたね(笑)。消え方に関しては、当初から非常に緻密な設定があるんです。「各変電所、電力会社別にエリアをくくり、太い電力ラインがありますから、その周囲から順々に消してください」というような細かい指示が出てました。
渡部
各電力会社の管轄ごとに消えていくタイミングをズラしていくという演出意図なんですね。かつ、各電力会社内でも主要な幹線と末端の部分があるはずだから、それに合わせてこの系統とこの系統が消えていくに違いないと(笑)。
佐藤
おかげで消え方だけで、何度も何度もリテイクになってしまいました。あまり細かく消していくと、ワイプに見えてしまうし。「それでも、細かくしてほしい」という粘りがあるんです。
渡部
注目すべきは、箱根のあたりでしょう。あのあたりだけずっと光っていて、さらに二子山のあたりが最後まで残ってるわけです。でも、最後にそれがフッと消えるんですね。
佐藤 最後の点が消えるのは、意識して見つめれば分かりますよ。第一弾の予告に入れないといけないので暫定版も作りましたが、それは逆回しで日本列島に電気がついて終わるんです。予告なので、明るくして終わりたいという意図なんですね。

粘土のようにこねて
完成度をあげる


インタビュア
完成した作品をご覧になっての感想を教えてください。
渡部
もう、ビックリしました。一番大きかった驚きは、第6の使徒に声がついていたことです。物理的な効果音は想像していましたが、その「声」のせいか、完成作品には予想の上のさらにまた上をいくような存在感があって、素直に驚きました。
佐藤
効果音は反則だよね(笑)。
渡部
展開した状態から戻るとき「ヒューヒュー、カンッ!」という音を庵野監督が現場で口にされていましたが、まったく同じ効果音が入っていたことにも、「なるほどなあ」と思いました。あれは分かりやすくするための例えだろうと思っていましたが、ホントに同じ音で(笑)。
佐藤
多分、庵野さんのなかでイメージが明解なので、一貫しているんでしょうね。
渡部
これはプロとしては失格の発言かもしれませんが、初号試写はファン冥利に尽きました。アクションの「気持ちよさ」に釘付けだった作品に、自分がその部分で携わることが出来たことが本当に嬉しかったんです。
ただ、逆に言えば自分のつけたアクションにその「気持ちよさ」がなかなか生まれない時の焦燥感もひとしおでした。でも、そこは幸い庵野総監督、鶴巻監督、ウチの佐藤も含めて、「ここはこうしたほうがいいよ」と非常に分かりやすい言葉で助言がいただけたので、結果的にここまでの完成度にすることができました。本当にありがたかったし、とても勉強になりました。
作業を通じて「気持ちいい動き」というものを順を追って理解できましたし、そのおかげで、当初の想像とは全く異なるレベルの仕上がりにたどりつけた気がします。

インタビュア
最後に全体を通じて感じられたことがあれば、お願いします。
佐藤
通常のTVアニメですと、作画が終わったあとに芝居を変える作画リテイクなんて、あり得ないことなんです。でも、CGはそれができるわけです。
今回は、彫ったらそれきりの彫刻ではなく、粘土をずっとこねている感覚で取り組まれたのではないでしょうか。本来アニメの作業上ではタブーなはずのそうした作り方を貫くためにも、庵野さんは自分の会社を作ったんだろうと、僕は思っています。
CGはもともと少しずつ積み上げていく作業がアニメに比べて多く、監督や特撮監督とのキャッチボールは必須です。そういう意味では、僕らにとって今回の試行錯誤の積み重ねも、いつもの業務の範疇ではあったんです。でもそうは言いつつも、「これはいつもより相当粘っこかったなあ」というのも、確かな実感なんですね。それはウチとしてもありがたいことでした。
僕としては完成品に対して、自分たちの成果よりも、むしろ他のカットを担当しているアニメーターさんや背景さん、撮影さんたち他のスタッフ全員に対して、ウチに対する試行錯誤と同じことをやっていたはずだという気迫を感じて、改めてもの凄いフィルムだなと思いました。
渡部
粘土のたとえ話は、僕にとっても非常に分かりやすいです。
佐藤
ずっとこね直していたい粘土でしょうね。もしかしたら一生、こねているかもしれませんよ(笑)。
(二〇〇七年十一月五日/モーターライズにて)

PROFILE[/size]

CGI/VFX:
さとう・あつき


1961年生まれ。静岡県出身。放送局、ビデオ制作会社を経てイマジカ特撮部に所属し、CMや映画予告編を数多く手がける。独立後、デジタルエンジン研究所を経て株式会社イマージュの事業部としてモーターライズを設立。押井守監督『アヴァロン』(2001年)、『イノセンス』(2004年)、庵野秀明監督『キューティーハニー』(2004年)、樋口真嗣監督『ローレライ』(2005年)、『隠し砦の三悪人』(2008年)など、アニメ・実写・ゲームを問わずエポックメイキングな数々の作品でCG、VFXを担当している。『序』では特報、予告編関係と第6の使徒関係のディレクションを手がけている。

PROFILE

CGI/VFX:
わたべ・ひびき


1974年生まれ。東京都出身。押井守監督『アヴァロン』(2001年)からモーターライズに参加、樋口真嗣監督『ローレライ』(2005年)、『日本沈没』(2007年)、『隠し砦の三悪人』(2008年)などの作品でCG、VFXを担当。『序』では第6使徒の登場シーンを中心にCGを制作した。

Joseki
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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 3:38 am

全記録全集:序 インタビュー:奥田 浩史
取材・執筆:氷川竜介

編集:
奥田 浩史


『エヴァ』で高く評価され、作品の《要》にもなっているのは「編集」である。
カットの連続と不連続のせめぎあいの中から、大きな意味や感情が浮かびあがる映画的表現は、
すべて「カッティング」のテンポや切れ味で醸し出されていくものだ。
そのこだわりの「編集」作業の重責を担った奥田浩史は、『エヴァ』的編集をどうとらえているのか?

セリフと編集の深い関わりあい

インタビュア
編集の仕事は、アニメよりは実写が多い方ですか?
奥田
ええ、僕は実写の仕事がメインですね。よく仕事をするのは樋口さんや庵野さんで、そのつながりでアニメの仕事もやらせてもらっているという感じです。
『ヴァンドレッド』の総集編やタツノコプロの『鴉-KARAS-』、「ふしぎの海のナディア」や「フリクリ」のDVD特典映像がアニメの仕事です。
編集としてデビューしたのも庵野さんの実写作品で、『ラブ&ポップ』です。その前に『THE END OF EVANGELION』の実写パートも担当させてもらいましたが、庵野さんとの仕事を通じて1コマの大切さをものすごく教わりました。1コマを切るか残すかで、そのカットの印象は大きく変わると思います。その感覚は今でも実写作品を編集する時に大事にしているところです。

インタビュア
その1コマの違いとは、具体的にはどう現れるのでしょうか。
奥田
特にアニメの場合、その1コマがあるかないかで動きが流れて見えるか止まって見えるか、それによって印象に残るか残らないか、それぐらい違ってきます。お客さんに見て欲しいところを見せたり、目が行かないようにすることもできます。
普通のアニメは1枚の画を3コマずつ撮影します。でも『エヴァ』の場合、動き始めの1コマか2コマを必ず切り落とすんです。そうすると動きがスムーズに見えたり、アクションシーンでは動きが激しくメリハリがついて見えます。『エヴァ』の戦闘シーンはこの積み重ねですね。

インタビュア
『エヴァ』ならではの編集の特殊性みたいなものは、他に何がありますか。
奥田
『エヴァ』に本格的にかかわるのは今回が初めてですが、前に作品を観ていたときには「シーンの終わりやセリフの後がすごく短いな」と思っていました。
テンポはいいんだけど、セリフを言い終わるとすぐ切っちゃう。それが自分としてはせわしく感じて、不親切だなと思っていたので、「もし自分が編集やれるなら、そこを伸ばしてやろう」と考えていたんです。
ところが現場に入ってみたら、実はそこはもともと撮影されていなかったという衝撃の事実が分かったんです(笑)。

インタビュア
それじゃ伸ばせませんね(笑)。今回の作業としては、どの段階から関わられたのでしょうか?
奥田
アフレコ直前からですね。TV版の素材と画コンテが混ざっている状態でのラフな編集は総監督助手の轟木(一騎)さんがやってくれていたので、そこから先を僕が引き継いだかたちです。
具体的には「ここにセリフが入ります」というアフレコ用のボールド(字幕)を入れる作業からですね。今回はアフレコをやった後にカッティング(編集)する予定でしたから、呎的には「とりあえず」とルーズでも良かったんですが、摩砂雪さんがだいぶ凝りまして、かなり時間をかけて作っています。

インタビュア
そのアフレコ段階での編集版は、どういう位置づけになるのでしょうか。
奥田
いわば編集の叩き台ですね。呎もだいぶ長めですし、完成品とは相当違います。
庵野さんの場合、声優さんにはある程度自由にやってもらって、セリフに合わせて画の方を調整していくというやり方です。アニメ制作としては手間ですが、その方がクオリティの高いものが出来ると思うので、僕としても賛成です。

インタビュア
この作品は監督が三人いますが、たとえば編集権は誰とか、そういう取り決めはあったのでしょうか。
奥田
Aパート(前半)が摩砂雪さんでBパート(後半)が鶴巻さんという決まりはありました。
Aパートは、摩砂雪さんと編集した後で庵野さんにチェックしてもらい、さらに摩砂雪さんが切るという流れでした。Bパートの鶴巻さんは、編集が終わると「あとは総監督(庵野さん)にお任せ」という感じでした。
だから、鶴巻さんと納得して残しておいたセリフの後の間は、庵野さんがチェックして「長い! セリフ終わり2コマでカット!」と言われて、「やっぱり切るんだ……」と(笑)。
そんな風にセリフ終わりを2コマで切るところや、動き出しやカット頭を必ず切るところ、あるいはセリフのかけあいになると画が引きサイズになるのが、「エヴァっぽい」ところだなと思いました。

インタビュア
セリフとカッティングにも深い関係があるということですね。
奥田
実写にしてもアニメにしても、庵野さんはセリフをお客さんにじっくり聞かせて理解してもらうこと自体、どうもあまり好きじゃないのかもしれません。
むしろ意味のない音として気持ちよくリズミカルに聞いてほしいようで、お客さんが言葉としてセリフを理解しようとしてつまづいてしまうと、次のセリフも聞き落として分からなくなってしまう。
そのあたりもエヴァ流というか、庵野さん流なんでしょうね。

こだわりの編集、
作業はループ状態に


インタビュア
デジタル編集用のアプリケーションは、何を使って作業されたのでしょうか?
奥田
Avidという業務用編集システムです。手順としては、最初にセリフをベースに間を詰めるという作業があります。
一応はコンテ撮やTV版の画があるので、だいたいそれに合わせておいて、本番の画が上がればハメ換えていくというかたちで、だんだん完成品に追いこんでいきます。積み重ねで仕上げていくわけですね。

インタビュア
編集作業としては、何工程あることになりますか?
奥田
アフレコ前カッティングと、アフレコがあがった後と、音楽が上がった後と……。大きくは全部で三回でしょうか。
でも細かく言うと、新しいカットをハメ換えるたびに編集してましたね。摩砂雪さん、鶴巻さんが見てから庵野さんがチェックして、また摩砂雪さんが切る。別々にチェックを繰り返すのでキリがなくてループ状態でしたね(笑)。
しかも作画リテイクしているカットに、動きの変更と口パクの修正が別々に指示されることがあって、上がってみると内容は合っているのに、長さが合わないとか、口パクが直っていないなんてことがありましたね。リテイクカットはいっぺんにあがってくるわけではなく、小出しにあがってくるのでイタチごっこになってました。

インタビュア
それを調整する編集は、かなり大変だったでしょう。
奥田
大変といえば、むしろ時間帯ですね。実写映画なら朝九時から始まって夜七時くらいには終わるものですが、アニメってそれが逆転してるんです。
僕が朝九時ごろスタジオに入ると、みんなは仕事を終えて寝る準備を始めてるわけですよ(笑)。カーテンを閉めて、ヘッドフォンして仕事してましたね。
それでも自分の作業を終えて夜七時ごろ帰ろうとすると、庵野さんがひょっこり現れて「あそこのカットだけど……」なんて言い出す。「もう電源落としちゃいましたよ」なんてこともたびたびで、そのうち摩砂雪さんもやってきて作業が再開、終電に間に合わない。間に合わないなら朝まで仕事、ってだんだんアニメ時間に巻き込まれていくんです。

インタビュア
それは厳しい。ずっとそんな感じで作業されていたのでしょうか?
奥田
そもそもアフレコも最初の一回だけでは済まなくて、声優さんの都合に合わせて他のラジオ番組を収録中のスタジオまで行って、追加録音を四回も五回もやり直しました。
摩砂雪さんは新しいセリフが上がってくると、すぐに切りたがるんですね。ここで切ると次に上がってくるセリフやアフレコ用に渡したビデオテープと、Avid上で長さが合わなくなってしまう。「全部そろってから切りましょうよ」って言っても、どうしてもその場で切っちゃう。みんなせっかちなんですよね(笑)。
そうやって録ったセリフは、Avid上に全テイク、テストやNGも含めて並べて、庵野さんが「これがいい、これはダメ」と聞いて選ぶという方法をとるので、それも大変でした。ガヤ関係も同じ手法でやるので、組み合わせがものすごい数になっていくんです。

三者三様のバランスで進む編集

インタビュア
全体の編集プランも、特にAパートはだいぶ見直したと聞いています。
奥田
最初に全体を通して見たら、セリフの間を多少詰めても二時間半くらいあったんですよ。
大月さんから「九十分あたりでまとめて」と言われたし、僕も「初号機が出るまで十五分以上かかるのはどうかと」って提案して、それで前半をかなり切ったんです。詰め方も思いきって大きく削る方向で、「子どもが生まれたら名前は何にする?」という会話が冒頭に一分半くらいあったのを、まずバッサリ。
あとはエレベーターの中のくだりなどをかなり落として、シーンごとに後半だけ切るとか大胆にまとめることになりました。

インタビュア
コンテ撮で編集していく場合、音楽と画はどう合わせるんでしょうか。
奥田
音楽があがった段階でリズムに合わせて切っていきます。「このフレーズが五秒だから、七秒でPANしているのを五秒におさめて」などと、音楽に合わせて再撮影してもらったカットもあります。
普通の映画なら編集済みの映像を作曲家に渡して合わせていただくものですが、『エヴァ』は作曲家からあがってきた曲を実際に当ててみて、さらに編集を詰め直すんです。そこもエヴァ流でしょうね。

インタビュア
音楽とのタイミングはどれくらい厳密に調整して合わせるのでしょうか?
奥田
庵野さんは「キーになるところが合っていればいい」というスタイルですね。転調するところだけとか。
でもその転調に合わせるためにものすごく切ったり、逆に1~2カット増やしたりしたこともあります。
映画本編ではそのくらいで済みましたが、予告とかTVスポットとかはものすごく細かかったです。もうめまいがするくらい(笑)。
以前、摩砂雪さんとミュージッククリップをやったときもものすごい細かいと思っていましたが、庵野さんはそれ以上だったかも。

インタビュア
やっぱりこだわりどころは、みなさん違いますか?
奥田
この三人は性格もセンスも非常に似てるんだろうと思ってたんですが、けっこう三者三様なのが分かりました。
摩砂雪さんは摩砂雪さんの美学があるらしく、非常に繊細です。どうかすると4コマのカットを作ったりしますしね。個人的には7コマ以下だとヤバイ(認識できない)と思って伸ばしたくなるんですよ。
鶴巻さんは普通というか、僕にも共感できる部分があるんです。でも、「余韻があって、いい間ですね」なんて言っていると、庵野さんに切られちゃう(笑)。「センセー(摩砂雪さん)は切り過ぎで、マッキー(鶴巻さん)は長い」って切るんですね。

インタビュア
それだと三者で絶妙のバランスのような気もしますが、編集はそういう中でも全体のリズムやテンポを見ることになるわけですか。
奥田
本来そのはずですが、ほとんど庵野さんに助けられてしまいました。庵野さんって、その辺のバランス感覚が非常に優れていると思うんですよね。
全体の構成ということでは、Bパートで綾波が起動実験中にケガする回想シーンをどこに入れるか、すごく悩んでいましたね。単純に色を変えるとか、「何ヶ月前」と字幕を出すのか。シークエンスそのものをコピーして何パターンも作って、いろいろ実験を重ねました。そこはデジタルになって試せるようになったから便利ですよね。

インタビュア
つなぎに1カット入れたり回想の場所を変えたりしていると、だんだん画コンテとは別ものになっていきますよね。
奥田
ええ。ものすごい早さで欠番リストが出てきたり、そうかと思うと翌日には全部復活したりして、把握するのが大変でした(笑)。

デジタル編集の恩恵を受けるはずが……

インタビュア
とはいえデジタル編集ですから、フィルムの時代ほど差し替えは大変ではなかったのではないでしょうか。
奥田
差し替え自体はそれほど手間ではないのですが、「どうしても間に合わないカットは、レコーディング後のネガで差し替える」と、もう一段粘ることになってしまいました。
最初は「全編データで納品、一発でフィルムレコーディングして完了」の予定だったので「そのネガは、いったい誰が編集するの?」という話になってしまい、TVシリーズを担当された三木幸子さんにお願いして来てもらうことになりました。
僕は「あの『マクロス』の編集をやった三木さんにお会いできる、スゴイ!」って、ひたすら感激してました。
三木さんに、僕がもと日活の社員だったことを説明したら、三木さんも日活出身の大先輩ということがわかって、それから意気投合、ギリギリのスケジュールの中で楽しい差し替え作業が出来ました。

インタビュア
ネガ上では、どの辺を差し替えたのでしょうか?
奥田
ものすごいカット数でしたから、とても覚えていないです。Aパートだけで200カット以上はあったはずです。
ともかく完パケのあがったのが初号直前の十二時間前ですから、ものすごい綱渡りですよ。「イマジカの機械が何かの拍子に止まったり、移動する車が事故ったりしたら、それでアウトですから」って念押しされたほどで。

インタビュア
確か、ダビングを進めている時点でも編集を差し替えていたとか。
奥田
そうなんです。ダビングスケジュールもデッドラインを超えているのに、編集を変えたいと言われて、「まさか! このタイミングで?(日向のセリフ)」って驚きました。
話を聞いたら、「こっちの画を切って、その分だけこっちを伸ばすから総呎は変わらない」という話でしたが、そうは言っても効果音には影響するので、「明日朝までにダビングスタジオへ届けて欲しい」とテープに落とし直すことになりまして。そうこうしていたらマシントラブルでテープに書き出しができなくなったり……。

インタビュア
聞いてるだけで血の気が引きますね(笑)。あと、カラーでの編集の他に赤坂のキュー・テック(ポストプロダクション会社)での作業があったようですが、それは本編作業ですか?
奥田
そうです。本番のデータはHDサイズですが、カラーでは重くならないようDVサイズに圧縮したもので編集を進めていましたので。

インタビュア
なるほど、フィルムのラッシュとネガ編みたいな関係ですね。
奥田
そんな感じです。キュー・テックに本番(本撮)データがあるので、編集点の情報だけをメールで送っておいて、だいたいつないでおいてもらって僕が立ち会いに行くという進め方でした。
それに対しても後から後から差し替え分があがってくるし、「知らないリテイクだ(シンジのセリフ風)」って感じでした。結局、最後は画合わせで差し替えるしかないんですね。
その後のネガ編集にも同じリテイクカットが二回も三回も上がって来てどれが本物かわからなくなったり、いろんな混乱がありました。

インタビュア
そういう中でも予告編やPVの作業も入ってきたわけですね。
奥田
最後は何本も編集が並行していたので、修羅場でした。編集助手に差し替えをしてもらってる間に仮眠をとって、終わったところで自分が起きてきてプロモーションやる、なんて状況でした。
予告編は庵野さんから「とりあえずやってみて」と言われて、つないで見せると「何か違うなあ……」と言われてまたやり直すという形です。それが三度目くらいで庵野さんの中でもまとまってくるらしく、そこで「こうしよう、ああしよう」という話になるんですね。予告だから僕も「カッコイイ画を見せたい」とつなげてはみるものの、「まだこの画は出せん」なんて言われてしまうんです。キモになる本番の画がまだあがってなかった事情もありますけどね。

インタビュア
予告編第1弾のラストカットは逆回しになってるそうですが。
奥田
あのカットは『日本沈没』にそっくりでしたね(笑)。編集したのも、CG作った会社(モータライズ)もいっしょですし。本編と違って逆回しにしたのは、今回は明るくなって終わる映画だってことをイメージさせたかったからです。

インタビュア
そんな苦労の果てに初号試写をご覧になったとき、どんな感想を抱かれましたか。
奥田
初号のときには画が合っているかどうか、つなぎ目のトラブルがないかと、そっちばかり気になってしまい、映画としてちゃんと出来ているのか、面白いのかとか、判断出来ませんでした。
後日改めて劇場で観たときには、もう泣きそうでした。苦労した部分とかいろんな感情が一気にわき出て感極まってしまい……。やっぱり庵野さんって凄いなと思いました。トータルのバランス感があってこそ、飽きさせることなく最後まで観せられるということなんですね。長男(小学校二年)をいっしょに連れていきましたが、最後までちゃんと観てましたよ。
終わったあとの開放感もいいですね。きつかったことも忘れちゃう。映画は大ヒットだったし、好評だし。昔の友だちからも「観たよ!」って連絡が来たりしました。

インタビュア
『新劇場版』はまだまだ続きますが、今後の展望をお聞かせください。
奥田
今回、段取りや準備の流れのノウハウができたので、次はもう少しスムーズにいくんじゃないかなと期待しています。
庵野さんや摩砂雪さん、鶴巻さんのクセもそれぞれ分かってきたし、もっと良いものをお見せしたいなと思っています。
(二〇〇七年十一月七日/スタジオカラーにて)

PROFILE

編集:
おくだ・ひろし


1971年生まれ。神奈川県出身。フリーの編集マン。庵野秀明総監督とのつきあいは、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』 (1997年)の実写パートから。以後、庵野監督の実写作品では『ラブ&ポップ』 (1998年)、『CUTIE HONEY キューティーハニー 』(2003年)などの編集を担当。樋口真嗣の特技監督作品では金子修介監督の『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒 』(1999年/特技・編集)、原口智生監督の『さくや 妖怪伝』(2000年)など、樋口真嗣の監督作品では『ローレライ』(2005年)、『日本沈没』(2006年)などを担当している。アニメーション作品では『ヴァンドレッド 胎動篇』(2001年)、『同・激動篇』(2002年)、『フリクリ MUSIC DVD』(2005年)、OVA『鴉 -KARAS-』(2005年)、TVシリーズ『ヤッターマン』(2008年)などの編集も手がけている。

Joseki
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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 3:59 am

全記録全集:序 インタビュー:鷺巣 詩郎
取材・執筆:腹巻猫

音楽:
鷺巣 詩郎


前回の劇場版から『新劇場版』までの十年間で、音楽作りの環境とノウハウには飛躍的な変化があった。
デジタルプロセスがもたらした最新技術とシステムは、映画音楽の作り方を根底から変えた。
技術革新がもたらす、“リメイク”を超えた“REBUILD”。
その音楽面は、はたしてどのように実現されたのだろうか

王道のエンターテインメントをめざして

インタビュア
まず、庵野総監督との最初に『新劇場版』のお話をされたときのことからうかがえますか。
鷺巣
最初に『新劇場版』をやるというアナウンスがオフィシャルにされたのは、確か二〇〇六年の秋(九月)ですよね。でも、音楽に関しては、「今年中は顔合わせも打ち合わせもないので、とりあえず画コンテを読んでおいてください」というお話だったんです。それで年末にコンテが届いて、実際に打ち合わせ兼顔合わせをここ(スタジオカラー)でやったのが、二〇〇七年の春先、三月だったと思います。これはいろんなインタビューでも話していることですが、ぼくはいかなるサントラの仕事のときも、あえて台本をあまり読まないようにしているんです。筋書きを知ることよりも、監督と話をして根幹になっている部分を知りたいと思うので、つとめて具体的な情報をあまり頭に入れないようにしています。ところが、今回だけは違ってました。そもそも『エヴァ』自体が初めてではありませんし、TV版の第壱話から第六話をベースに作るという情報も先に伝わっていました。音楽も全部新作ではなく、前の曲も使うらしい。そこで、逆に今回は画コンテをかなり読み込むところから始めました。なまじ以前にやっているだけに、まっさらな状態からやることができずに、以前とどこがどう違っているか理解する必要があったんですね。監督(以下、庵野秀明総監督の意)と会うのも三年ぶりでしたが、仕事では『彼氏彼女の事情』(一九九八年)以来だと思います。ですから、すごく楽しみにしつつ打ち合わせにのぞみました。

インタビュア
その場では、どんなお話をされたのでしょうか?
鷺巣
庵野さんが結婚されて「変わったよ」と人づてに聞いていましたが、実際会ってみたらぜんぜん変わってなくて、まずは安心しました(笑)。監督は口数の決して多い方ではないですが、非常に用意周到で、数少ない言葉でスタッフを説得してしまうんです。監督の言葉が少ないことで、新劇場版のコンセプトや、いろいろなものがかなりのところまで練り上げられていることが、かえって伝わってくるんです。監督に強い意思があることが確認できてよかったなと、まず思いました。二〇〇六年九月に庵野さんが書かれた声明文がありますよね。あれは外部に対するメッセージであると同時に、内部のスタッフに対しても非常に大きな意味があったと思います。作りたいもの、やりたいことが、あの文章からはっきりと読み取れる。まったくブレていないんです。現状に対する不満も含めて、監督のあらゆる考えが、あの短い文章の中にすべて入っていました。ここまで書けるということは、少なくとも『序』に関してはもうブレないなということが、スタッフには手に取るように分かるんですね。そこから予想したとおり、最初の打ち合わせで、監督が根本的にやりたいことがほぼ百パーセントわかりましたから、あとは、すぐに曲のデモ出しに取りかかれる。「用意、スタート!」の銃が撃たれた、という感じでした。

インタビュア
『エヴァンゲリオン』をまた新たにやるということ、それ自体については、鷺巣さんご自身はどういうふうにとらえられていたのでしょうか?
鷺巣
『エヴァ』に関しては、いい具合に継続感があったんです。一九九七年に劇場版『THE END OF EVANGELION』が公開されてから後も、DVDによる5.1ch化、楽曲のリミックス、パチンコ、その他もろもろ『エヴァ』とはずっとつかずはなれずでいた感じです。  ですから一般的には『エヴァ』が新たな劇場版として帰ってくるインパクトは大きかったと思いますが、僕としてはさほど大きな心構えの変化はなかったんですね。いい再離陸になるように音楽を作っていければいい、まさに「REBUILD」できればいいと思いました。

インタビュア
画コンテを読まれたときの第一印象はどうでしたか?
鷺巣
「ヤシマ作戦」まででまとめると、こういうエッセンシャルなエンターテインメント作品になるんだと、素直に感心しました。一番の王道と言いますか、これはもし日本語を知らない外国人の方が字幕なしに観ても、きっと理解できる作品だろうなと。ハリウッドのブロックバスター作品のような、どこへ出しても恥ずかしくないエンターテインメント映画ができあがるだろうし、そういうふうにわれわれは仕上げなければいけないんだ……。そんな使命感を感じました。

インタビュア
音楽を作る上で、「REBUILD」というキーワードはどれくらい意識されましたか?
鷺巣
最初に作った音楽はTV用ですから、いわゆる「溜(た)め録(ど)り」でメニューに合わせて必要な曲を想定して、まとめて録っていく方式です。決して台本に合わせて曲を書いていたわけではないんですね。そこがまずTVと映画の大きな違いです。そういうものをベースに劇場用作品を作っていくためには、当然差し変わる曲も出てくるだろう。そんなことを、監督との打ち合わせの前に自分の中でいろいろ考えました。けっこう考えましたね、かなり細かく。

作曲には入念な予習が必要

インタビュア
では、具体的な作曲の作業はどんな手順で進めていかれたのでしょうか?
鷺巣
まず、キングレコードさんに預けてあるスコアを取りに行きました。『エヴァ』の場合は、嬉しいことにこれだけのヒット作になりましたから、スコアを利用していただける機会が非常に多いんです。キングレコードさんに預けてさえおけば、なにか要望があったときに、対応できるんですね。実際今世紀に入ってからでも、パチンコ、着メロなど、さまざまなケースでそのスコアが利用されています。ですから、僕としてもそのスコアをコピーしたり引き揚げたりするところから始まりました。それから僕は『エヴァ』はLDとビデオしか持っていなかったので、DVDをキングから送ってもらって、よく観直しました。そしてわれわれのスタッフ間でも、ある種「虎の巻」的に利用されてるのが、『S2 WORKS』(※1)というCD-BOXです。あのブックレットには、TV版のどこにどの曲が使われたかがきちんと整理されているので、曲を作った人間も何かあれば参考にするんですよ。そのころには、コンテのBパートも届いていましたから、それをながめながら各場面の使用予定曲を再確認していきました。こうしたところが他の作品と違うところで、要するに入念な予習が必要なんです(笑)。

インタビュア
庵野総監督からは、「こんな音楽で」という要望も出てきましたか?
鷺巣
打ち合わせの段階で、監督の中ではすでに音楽のプランはほぼ決まっていました。細部はまだにしても、「こうしたい」ということは間違いなく固まっていたので、それに沿って話をしていきました。  それから仕事場のパリに戻りまして、あとは実作業です。ロンドンでデモを録って送ったのが、ゴールデンウィーク明けぐらい。録音が二〇〇七年の六月第二週だったと思います。四月の打ち合わせから曲書きデモ録り含めて五週間、六月のレコーディングまでおよそ十週間ぐらいの計画で進めていました。

インタビュア
デモというのは、鷺巣さんが打ち込みで作られたものでしょうか?
鷺巣
そうです。今では世界的にサントラのデモ出しは、当たり前になっています。ほんの十年前まで……つまり前の劇場版『エヴァ』の頃までは、劇伴のデモを録音前に出す慣習はあまりなかったんです。打ち合わせを密にしておいて、あとは本番というやり方でした。その録音現場にも来られる監督と来られない監督がいて、さらに来られる監督の中にも現場でいろいろ注文を出す監督と出さない監督がいます。  監督の場合は「現場に来て、しかも注文を出す監督」ですね。しかも、録音後のポストプロダクション段階でも「あのフレーズをちょっと下げて、このフレーズはちょっと上げて」みたいな細部のバランスまで指示する。TV版のころから『エヴァンゲリオン』には、ミュージック・ディレクターやミュージック・スーパーヴァイザーといった、つまり選曲家のような立場の方はいなかったんです。「ここに音楽をこうはめる」というのは、庵野さんがぜんぶご自分で担当されていました。  今回も当然そうなりますから、とにかく庵野さんがいないと始まらないわけです。どんなに現場が忙しくなっても、公開直前で切羽詰まってきたときでも、監督に首を縦に振ってもらわない限りは先に進めないんです。ですから、最初に監督の意思がブレていないということは、今回もっとも安心できることでした。

技術革新で映像と音楽のキャッチボールが可能に

インタビュア
前の『エヴァ』と今回の『新劇場版』とで、音楽的な違いや技術的な違いがあれば、ぜひうかがいたいのですが。
鷺巣
最初の打ち合わせのときに監督から言われたことは、「今回の音楽に必要なのは、“厚みと深み”だ」ということでした。前作から引き継ぐ曲に関しては、「いわゆる劇場仕様に仕上げてくれ」と。そして新たに作曲する部分に関しては、平たく言い換えれば「盛り上げてくれ」ということです。  さっきも言ったようにTV版は「溜め録り」ですから、曲は使いまわされましたが、今回は各シーンにシンクロする楽曲すべて「新録」です。まず新曲に関しては、映画用語でいう「スポッティング」しながらの作曲が必要でした。映像のタイミングに音をコマ単位で「ピッタリ合わせる=スポットする」という意味です。旧曲についても、スポッティングしながらゼロから編曲し直しました。このRe-Arrange作業こそ、"Re-Build"ですよ。監督の要望どおり“厚みと奥行き”を与えるという"Build-Up"作業です。

インタビュア
やはり、映像と音楽のシンクロが重視されているわけですね。
鷺巣
少し話がそれますが、TVシリーズの第九話「瞬間、心、重ねて」では、すでにあった「溜め録り」曲にも関わらず、音楽に完璧にシンクロさせた映像を後付けで仕上げてくれましたよね。つまり言ってみれば逆スポッティングなんですが、あれだけ見事にやられると音楽担当としてはグウの音も出ませんよ(笑)。  もうひとつ、劇場版『THE END OF EVANGELION』の「甘き死よ、来たれ」(※2)のシンクロは、とにかく僕にとって驚異的でした。あれも「曲先」ですが、すでに作曲依頼の段階で監督から「最後のフェードアウトの部分、繰り返しを長~くして」「手拍子をこういうふうに(具体的な指示入りで)入れて」「音をカオス状態に」と、かなり細かくリクエストされていたんです。もちろん僕には、巨大綾波とか(笑)仕上がりの画なんて想像すらできないころの話です。でも、監督の中にはすでに確固たるイメージがあったわけです。  庵野さんは現場に来て、普通の人には聞こえづらいようなスライドギターやベースのフレーズを「もうちょっと上げて」とか指示して帰っていく。その意図なんて皆目見当がつかないんですが、出来上がったものを観たら、地球が回ったりする映像にパーフェクトにスポッティングされている……あれを観たときには「瞬間、心、重ねて」の三百倍くらいビビりましたね(笑)。  もちろん作業自体もおそろしく大変だと思いますけれど、そこにビビるんじゃなくて、センスですよね。まごうことなき圧倒的な音楽センス……もう、アートと言ってもいい。そういう監督のアーティスティックなセンスには本当に脱帽です。

インタビュア
『新劇場版』では、そうしたシンクロはどうやって作りこまれたのでしょうか。
鷺巣
前もそういう状況でしたので、今回もデモ段階でしっかりとしたものさえ作っておけば、絶対に逆スポッティングとか「なにか来るな」とは期待してました。  それには、まずテンポ感が合わないとどうしようもないので、まず先に画のテンポをしっかり決めてもらいます。昔から監督は「このテンポで行こう」となったら、絶対にブレないんです。迷うことがない。だから、打ち合わせのときにひと言、「これはオリジナルのテンポでいいです」とさえ言ってもらえば、あとはキングに行って、昔のマルチ・テープを出してきて、そのテンポをそのままコンピュータに移してしまえばいい。具体的にはそういう作業です。  旧劇場版から『新劇場版』までの、この十年間、音楽業界はかつてない最大級の技術革新が続きました。驚異的な進化をとげた十年ということなら、映像業界も同じでしょう。それらは、当然われわれの作曲、編曲作業にも大きな影響を及ぼしました。ものすごい時代になりましたよ。まさにエンターテインメント「新世紀」ですね。

インタビュア
そうした技術革新の中で、今回新たに取り入れたことは?
鷺巣
やはり映像と音楽、そのプロダクションの進め方でしょう。昔はデモひとつ出すにしても、それはあくまでデモであって、プロダクションの一部にはなり得なかったわけです。たとえばピアノを弾いてデモを作ったとしても、本番の録音での寸法はまったく違ってしまうのが当たり前でした。  ところが今は、きちんとした呎をデモ段階で先に固めることができるようになったんです。そして、画と合わせたときの仕上がりは、以前はMAスタジオの中にいるスタッフしか確認しようがなかったですが、今はすべてのスタッフが途中段階でも観て聴いてチェックすることができまる。それはものすごく大きな進化ですね。  われわれはさらに、その恩恵をビデオレターのごとく使ってます。QuickTimeで映像を送ってもらい、それに音楽をはめて送り返し、監督がまた新しい画をはめて送り返したり……そんなやりとりを、メールで行っているんです。セリフだけ別トラックでもらったり、効果音だけもらったり、ぜんぶキャッチボールできるわけです。

インタビュア
それだと、まったく場所さえも問わないですね。
鷺巣
ええ。海外にいようがどこにいようが、いつでも変わらない。その技術革新によって、いかにお金と手間が有効に使えるようになったか。その恩恵を最大限に生かしたのがハリウッドのブロックバスター作品です。ただし、一方でそれによって、プロダクションの密度はものすごく高くなりましたね。要するに、作業が大変になりました(笑)。  でも、それが音楽の内容にもすごく良い影響を与えているのはたしかです。三十年間この仕事をやってきた中で、今ほど面白いと思うことはないですよ。その結果、この十年で、サントラを作る意義が根底から変わったと思います。  かつては監督と音楽家の間に衝突も多かったし、リジェクト(ボツになる)トラックも少なくありませんでした。その大きな理由のひとつは、打ち合わせからレコーディング本番まで監督はデモひとつ聴けなかったということ。いかに苦労して作曲~レコーディングされた音楽でも、監督が気に入らなければ、それは捨てるしかありません。そういう悲劇は絶えませんでした。  ところが現在は監督と作曲家の間で綿密にキャッチボールができるので、コミュニケーション・ブレイクダウン(断絶)はなくなりました。少なくともコミュニケーションを理由にしたリジェクトというのは、ないです。あるとすれば、プロデューサーが公開直前に編集をいじって、せっかくのスポッティングが崩れてしまったことによるリジェクトですね。  今では監督にとっても作曲家にとっても、ものすごく実験的なチャレンジさえ可能になりました。たとえば「二〇八〇年のモンゴルのBGM」を作ろうとしたときに、作曲家に「ネイティブ・アメリカンみたいな音楽をあてたら面白いんじゃないか?」なんてアイデアがあったとします。「ええっ? 合わないんじゃないか」と監督もプロデューサーも思うかもしれない。でも、今は実際かなり具体的なスポッティング・デモ音楽ができるから、事前に映像といっしょに見せる(聴かせる)ことができる。すると監督もプロデューサーも「これ、けっこう合うじゃない」ということになる。そんな風にコミュニケーション・ブレイクダウンがなくなるわけです。  しかもその結果、非常に先鋭的な映像が完成する……ハンス・ジマーと彼のプロダクションがやった作品に、今話した成功例の典型がありますよね。映画音楽のプロダクション自体が、世界でいちばん最先端になったから、今のサントラはアップ・トゥ・デートなポップスと同等、いや同等以上の影響力さえ持っているんです。かつてない画期的なことですよ。

よどみなく流れる川のように

インタビュア
それでは、鷺巣さんが海外録音をされる意図について教えてください。
鷺巣
まず第一に、十五年以上前から僕の仕事の拠点はロンドンにあるんです。今回演奏してくれたオーケストラ(The London Studio Orchestra)とも、十五年以上も一緒に仕事をしていますから、意思の疎通は完璧です。前の劇場版『エヴァ』も「甘き死よ、来たれ」をはじめとする三分の一の曲は同オーケストラの演奏です。  第二に、ロンドンは映画音楽プロダクションの最新インフラが整っているということです。九〇年代後半から、映像のプロダクションはハリウッドで、音楽のプロダクションはロンドンでやるというのがメジャーの主流になってきています。ロンドンのスタジオ・ビジネスが優秀なのは、ミュージシャンズ・ユニオンの組織力、権利の透明性、オーケストラや合唱団の層の厚さ、エンジニアの読譜力、サラウンド環境にいたるまで、それらのマネージメントとスキルが、日々確実に稼動し続けているからなのです。  日本にも広いスタジオはあります。でも、映像とシンクロさせるための画面が指揮台に用意されていて、なおかつ5.1ch用のマイクが常にセッティングされているスタジオというのは、残念ながらありません。もちろんハリウッドにもありますが、今はロンドンのほうが進んでます。アビーロード・スタジオとエアー・スタジオがその代表で映画音楽のメッカです。その2つのスタジオは毎日稼働していて、なおかつ日々ものすごい修羅場の中でスタッフが作業をしています。ですから、データ管理も含めたセキュリティなども、つまり、あらゆる面で一日の長があるわけです。そういう環境は、ものすごいアドバンテージですね。  映画制作において、何百億円という予算でやっているハリウッドに追いつくことは難しいと思います。だけどこと音楽のプロダクションに限って言えば、革命的な技術革新のおかげで、ノウハウさえあればほぼ同じやり方でできるようになりました。かと言って、日本の百倍の費用がかかるわけではありません。だったら、それを活用しない手はないんです。  今回も監督の口から「厚みと深みがほしい」と言われたとき、すぐさまそのプロダクション・スタイルでやるのが一番いいと思いました。  誤解されるといけないんですが、それはかつて六〇年代、七〇年代に日本の歌謡曲がよく海外レコーディングしていたときの「ハクづけ」みたいなものとは、まったく違うものです。日本と海外で、ミュージシャンの演奏力に差があるわけではないんです。今回も、リズムセクションなどに関しては日本のミュージシャンが大部分です。

インタビュア
それでもサウンド的には日本で録るものと違ってくるわけですか?
鷺巣
はい。僕らはよく「フォーミュラ(公式)がある」って言いますが、それは「こう録れば、こういう音場が仕上がる」という「公式」が確立しているという意味です。ロンドンのスタジオには、そのフォーミュラがあるんです。「こういうオーケストラの音を録りたいなら、このセッティングで録れば間違いない」という確信があるから、現場で試行錯誤する必要がまったくない。もし、本番中にセッティングを変えたり試行錯誤していたりすると、たちまち三十分や一時間は経ってしまいます。オーケストラを一時間待たせれば百万円以上をドブに捨てることになりますし、録音時間も圧迫しますから、とうぜん演奏の質も悪化します。フォーミュラがないスタジオで録るリスクとは、そういうことなんです。

インタビュア
ハコの規模や楽士のスキルの差というよりも、システムとしての信頼性が違うという意味でしょうか。
鷺巣
そうです。プロダクション全体が、よどみなく流れる川のように常に進む……その安定感、信頼感でしょう。やはり、大規模なプロダクションをコンスタントにやり続けている映画音楽のメッカの最大の強みですね。

最初の音楽集は
鷺巣詩郎のアルバムとして


インタビュア
音楽集の第一弾には、サウンドトラックという表記はありませんでした。鷺巣さん個人の名前が前面に出たアルバムとなっているようですが……。
鷺巣
今回の映画は主題歌に宇多田ヒカルさんを起用したことで、主題歌を収録したサントラ盤を公開時期に出すことが難しかったという事情があります。主題歌なしでは、「オリジナルサウンドトラック」とは呼べないのでは、というスタッフの共通認識もありました。「どうしよう?」とキングの担当者と僕とで非常に迷いましたが、監督に相談したら、もうその場で「今回は、鷺巣さんのアルバムということにしてください」と即決ですよ(笑)。  それは伊達や酔狂でおっしゃったわけでは決してないんです。「本来ならば自分が曲タイトルも構成も決めて仕上げたいところだけれど、今は『新劇場版』の仕上げに追われていてままならない。選曲も含めて鷺巣さんにお願いします」という庵野さんの気持ちなんですよね。鷺巣詩郎のアルバムとして出すということで、自分で曲順を決めてタイトルをつけましたが、これは『エヴァ』に関しては初めてでした。

インタビュア
曲順は映画で使われた順になっているようですが。
鷺巣
今回は純粋な映画音楽=サウンドトラック・プロダクション進行ですから、Mナンバーも基本的にシーン順です。その順番以外には、なかなか思いつかなかったということですね。  あと、タイトルに関して「どうしてフランス語と英語が混在しているんですか?」という質問をよく受けるんですが、これは単純な理由です。パリの自宅で書いた曲はフランス語、ロンドンの自宅で書いた曲は英語というわけです。

リメイクの概念を超えて

インタビュア
完成した『新劇場版』についてのご感想も聞かせてください。
鷺巣
正直言うと、全部つながったものは、まだちゃんとしたかたちでは観ていないんです。もちろんMA(セリフと効果音と音楽をミックスするプロセス)の段階でロール単位でブツ切りのものをチェックのために観てはいるんですが。おそらくDVDにするときに監督はリテイクするだろうと予想していたので、どうせならディレクターズカットを観たいなと(笑)。  ただ、完成時の感慨はさっきの答えとも重なりますが、セリフがわからない人が観たとしても間違いなく楽しめる、第一級のエンターテインメントができたなと。これは本当にそう思いました。TVシリーズの『エヴァ』をこういうふうに切り取って見せるだけで、これほどエッセンシャルなものになるんだという、驚きもありましたね。  それは、最初に仕上がりを予想したものが、寸分の狂いもなく出来上がっていることへの驚きでもあるんです。なかなか理想と現実は一致しないものですが、今回は、画コンテや監督の声明文を見たときの第一印象そのままのものができあがっています。なおかつ、エンターテインメントとしても一級品である。その驚きと安堵感が、僕の感想のすべてですね。

インタビュア
劇場用プログラム用に寄せられた文章には、「公開まで二十日あるけれど、それまでになにがあるかわからない」と書かれていましたが、実際にはどうでしたか?
鷺巣
正はい。まあ……ありましたよ、いろいろと(笑)。ただし、『エヴァ』の修羅場は過去にも面白いぐらいたくさんあったので、それに比べれば大したことないレベルですよね。  さっき述べた技術革新で、われわれ作曲家はコミュニケーションの心配からも解放されたし、なによりサントラのプロダクション自体がすごく面白くなりました。たとえば音楽を手直しするとき、かつてはテープを切ってつなぐという、もう単に物理的な「修正」作業だったわけです。それに、いったんテープを切ってしまうと、つなぎかたにあまり選択肢がありません。  それが今ではコンピュータ作業だから選択肢のオプションは無限、その場ですべて聴き比べられて、しかも、画に合わせてみることまでできるんですから……なにより面白いし、最高にクリエイティヴですよね。結果、退屈な作業だった「修正」は、魅力あふれる「再構築という創造」に生まれ変わったんです。ポスト・サンプリングとしては、いちばんアップ・トゥ・デートな手法になったんです。  たとえばハリウッドが何十年ぶりかに『インディ・ジョーンズ』をやりますよね。あれもポスト・サンプリング、ポスト・リミックスの現れでしょう。今回の『新劇場版』もそうした時代に対応して、「再構築」を"REBUILD"と呼んでいますが、そこには十年前のリミックス感覚とは明らかに違う、新しい感覚が宿っているんです。  近い将来、ユーザひとりひとりが『スター・ウォーズ』の映像をデータで持っていて、コンピュータのOSをアップデートするように、最新版にアップデートできる……そんな日が来ると思います。音楽でもアーチストが自分の作品を絶えずアップデートして、みんなそれをダウンロードして聴くという時代になるかもしれません。そうすると、また面白い時代が来ますよね。いちいちDVD-BOXを買わなくても、常にそのとき一番新しい『ブレードランナー』が観られるわけですから(笑)。  新しいものを生みだすことだけがクリエイションではないと思います。昔のものをいじる面白さって、絶対にあるんですよ。その中から新しい才能も出てくるわけです。ですから、これまでリメイクとかカヴァーとか呼ばれてきた概念が、これから根底から変わるんじゃないかと思います。  そうなると、結局これから問われることって、「あなたの好きなものは何なの?」ということになってくるんです。音楽にせよエンターテインメントにせよ、それをきちんと示せる人、あるいは具現化できる人が求められるわけです。実際にYouTubeにしても、あれだけ面白いものがアップされる時代になったわけでしょう。  今はまだ過渡期ですから、あれが著作権的に是か非かという議論もありますが、クリエイターや音楽家の中には、「おれの作品は自由にいじってくれてイイよ」とOKする人は必ず出てくるでしょう。そうやって過去のものを「REBUILD」することが誰にも自由にできるようになれば、自分が本当に好きなものを作ることができて、かつ、その中から大ヒットも生まれるはず。  近未来は、そういう時代になると、僕は思っています。

PROFILE

おんがく:
さぎす・しろう


1957年、東京都出身。作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、アーティスト。『ふしぎの海のナディア』(1990年)で庵野監督と出会い、『エヴァンゲリオン』の音楽をTVシリーズから『新劇場版』まで一貫して手がけている。映像音楽作品の代表作はほかに、『メガゾーン23』、『MUSA』、『BLEACH』、『スカルマン』など。

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 4:23 am

全記録全集:序 インタビュー:野口 透
取材・執筆:氷川竜介

効果:
野口 透(アニメサウンド)


庵野秀明総監督は「映像と音」が観客に作用する比率を「5:5」と語っている。
抽象化・記号化されて描かれるアニメーションは、画だけでは成立しない。
効果音の放つ独特の雰囲気や主張、あるいは質感の裏打ちがあって、初めて存在感が出てくるのだ。
そんな庵野総監督独自の効果音へのこだわりは、現場ではどのように噴出していたのだろうか?

レベルメーターが赤く振りきったダビング作業

インタビュア
追い込み中のダビングスタジオ(東京テレビセンター)を少し見学させていただいたときには、かなり大変そうな雰囲気でしたね。まずは作品の手応えからうかがっていきたいと思います。
野口
そうですね。監督(以下、音響監督を兼任した庵野秀明総監督の意)の意向には百パーセント従ったものにできたと思います。
けっして悪いものではない、いいものができたという確信があるんですが、まだまだ「上」が狙えたなと。
ミキサーの住谷(真)さんとも「ちょっと監督の言うこと聞き過ぎちゃったかな」という話をしてたんですよね。

インタビュア
それは具体的にはどの辺でそう思われたのでしょうか。
野口
自分たちの信条としては、静かなシーンもあるので、もっとメリハリ効かせたものにしたかったんです。それが、戦い戦いで連続しているフィルムに見えてしまい、ちょっと全体にベタっとし過ぎかなと。
なにせ後ろの(監督の)席から「もっと(音量を)出せ、出せ」と津波のような攻撃が来ましたからね(笑)。そのせめぎあいの中で、ギリギリのラインを求めすぎたなと。
「セリフも音楽もSE(サウンド・エフェクト)も聞かせて」というわけのわからない監督のオーダーでしたから。もう少し引くべきところは引かないとね。
初号試写が終わったときも監督に言いましたよ。「次は音質のことは聞くけど、音量のことは絶対に聞きませんから」って(笑)。それが反省点ですね。

インタビュア
庵野さんはかなり音量にこだわっていたということですか。
野口
俺が仕込みのために不在だったとき、音楽とセリフのチェックを先に監督にしてもらってたら、冗談めかして「庵野さんに効果音のバランスを取ってもらおうか」ということになったらしいんです。
ところがSEをガンガンに鳴らして、レベルメーター振り切って真っ赤っかで、音量でかすぎてセリフが聞こえなくなっちゃったんですよ(笑)。もうお話にならないんで、住谷さんが「庵野さん、やっぱり(フェーダーに)触らないでくださいよ」と。
いろんな作品をやってきましたが、セリフはセンターに置いておいてSEは全体に広げて、音量も抑え気味にするのがセオリーです。そうしないとメインのセリフが聞こえにくくなるんですよね。
人間は神様じゃないから、全部同時には聞こえないものなんですよ。台本をお客さんにあらかじめ渡しておかなければ、分からない作品になる(笑)。映画だから常に全部出してしまうのはやめて、順番に聞かせるような設計が必要でしょうと。それは前のDVDのときから、ずっと言ってましたけどね。

vインタビュア[/b]
TVシリーズと前の劇場版の5.1ch化(二〇〇三年)のことですね。今にして思えばあれが今回の予習のようになっていたわけですが。
野口
あのときもガヤセリフがいっぱい入ってきて、困っちゃったんですよ。いろいろ考えてこっちも音を散らしてるのに、雑多なセリフに全部喰われて霞(かす)んじゃうわけで。「あれなら、もっとSEを足しておけば良かったなあ」と思うんですよね。
SEを大きく出すことを想定している画なら、当然必要な音を大きく出します。しかし、発令所のように基本的に全体に拡げるようなシーンでは、個々のSEを大きく出すことはありえないわけです。
ドラマ的には前の方に集中して欲しいのに、脇や後ろから大きなセリフが出てくると、お客さんは「なんだなんだ?」ってなっちゃう。もちろん『エヴァ』の場合、「あれが好きなんだ」という人もいるでしょうから、何とも言えませんが……。
でも、聞こえる要素が多すぎるから計算して減らす、引き算が最初にある方が良いと思いますね。

細部も全体も両方チェックが入る

インタビュア
それはミキシングの調整だけでは、何ともならない部分でしょうか。
野口
もちろん住谷さんも、ある程度かぶらないように定位をきっちり割り振ってくるんですよ。
ところが、庵野さんからさらに細かい位置決めの変更が入ってくるんですよ。「今のセリフは何々だからどちら側から聞こえてきます」と、全部指示する。庵野さん以外には誰にも位置が分からない(笑)。
初号機の発進シーンにも、いろいろ細かい声が重なって聞こえますよね。あれもセリフによって、すべて場所が決まっているんです。その上でクレーンが写ると「重機がこすれながら上がっていくような重たい音を、ガン! と出してください」と、SEもやっぱり足し算になっていくんです。
そうやって重ねたら、音楽は鳴ってる、セリフはガンガンくる、レベルメーターは真っ赤になるくらい振りきってる(笑)。

インタビュア
見学させていただいたとき、確かに「メーターが赤い赤い」と気にされてました(笑)。
野口
基本的な技術では、サブウーハーというLOW成分(重低音)だけ上げるという手があるんですが、ダウンミックスしていくときにサブウーハーだけに頼ると、音の成分がどんどん細くなって痩せてしまうんです。その目減り分を考えないとダメなんで、原音の段階でLOWを出しておかないといけないんです。でも言われるままに音を追加していくと、それがどんどん足し算になってしまうんですね。
特に今回は列車だ何だと、画面に写ってるものの数も多いんですよ。CGで簡単に増やせるようになったからですかね。これもSEとしては困っちゃうんですよ。
「音の数が少ない少ない」とさかんに言われましたが、そりゃそうだよって。同じ機種なんだから、効果音も同じ音ですよね。どんなにたくさんかぶせても、同じ音にしか聞こえないって(笑)。なので、ある程度多そうに聞こえる音をまず作ってから、違う成分を足していくことになるんですよ。
でもそれだとやっぱりどんどんメーターが上がっていっちゃう。そんなにうるさい場所なのに、延々とキャラがしゃべって大事な会話してる(笑)。「どうしろって言うの?」なんて、そんなのばっかりでした。

インタビュア
庵野総監督からの「直し」の要求も、かなり凄まじかったようですね。
野口
全部で6ロールですが、最初の1ロール、2ロールくらいが終わった時点で、予定では3ロール目くらいまでいってなければまずかったんですよ。
ところがあまりにも直しが多くて、2ロールしか行けなかったんです。最初のロールで「さすがにこれは現場の直しだけでは無理だ」と判断して一日延期してもらい、効果音は全部仕込み直しました。
そんな感じで時間を使いきっちゃって、ダビング現場は初号ギリギリまで作業していましたね。
見せたときにその場の直しでOKの出たロールって、ほとんどないですよ。朝にちらっと見せて会社に戻って直しの作業を始めて、夜になったらファックスでぎっしり直しの指示が書かれた書面が三枚くらい来るんです(笑)。
それをもとにさらに朝までかけて直したものを現場に持ってって、また直される。原型が留まらないということはないにせよ、かなり変わりました。

インタビュア
庵野総監督からは、細かい直しが多かったのでしょうか?
野口
普通、監督ってどっちかに偏るものなんです。こだわってる部分だけ細かく言ってくる人と、全体を見て言う人と二種類なんですが、庵野さんだけは両方言うんですよ(笑)。
「えっ、ここも?」っていうところまで踏みこんで言われるので、ちょっとびっくりしました。やっぱり力が入ってたんでしょうね。

5.1ch版DVDから
こだわりが増した


インタビュア
野口さんの『エヴァ』の作業もTV版と前の劇場版、それに5.1ch版と今回の『新劇場版』で、もう何度目かですよね。その中で時期につれて何か変わっていったことはありますか?
野口
監督がご自宅にホームシアターを作られてから、いろんな映画を観て「こういうサラウンドにしたい」と思うようになったんじゃないでしょうか。
それで『エヴァ』の5.1chのリメイクをやって、庵野さん自身が「5.1chはこうやればいい」と学習してから、かなり細かくなった気がします。
あの時も、俺はだまされているんです。庵野さんが別の仕事をかかえて「忙しいから」って立ち会わないはずだったのに、結局二十六話全部来てしまった(笑)。あげくの果てにセリフをいっぱい付け足して、「最初と全然話が違うじゃん!」ってことになったんですよね。
今回だって始めたときとは全然違うわけですよ(笑)。最初は「再編集版で、その中にちょっと新作パートが入ります」という話でしたから。
様子が変わってきたときに、「もう一回打ち合わせしましょうよ」と言ったんですが、いかんせんカラーさんがテンパってしまったので、細かく聞けてなくて。それで直しが多くなったということもありますね。

インタビュア
効果音的には、当初どんなプランだったんですか。
野口
最初はやはり、「元のTV版の設計を大きく置いて、それよりも拡げて劇場サイズに作りこんでいこう」という程度の話でした。
ところが結局は「前の音とまったく変わってしまってもいい」なんて話になってくるわけです(笑)。

インタビュア
実作業に入ってからは、どんなプランになったのでしょうか。
野口
本格的に始まって作業がかなり進んできたときに言われたのは、「今回は“ヤシマ作戦”がメインだから、そこはがんばってほしい。後はだいたい前のままでいいから」でした。
これまた大嘘(笑)。「結局、ロール1から全力投球かよ!」って。
住谷さんと心配していたのは「最初からこんなに大きな音を出して大丈夫かな」ってことなんです。頭は「脅かし」が入るからある程度は大きくていいにせよ、初っぱなからメーターがピーク過ぎて赤くなりましたからね。
ロール2はそれでもおとなしいはずだと思ってたら、ビルが上がってくるシーンで例の「音数を増やせ、増やせ」ですよ(笑)。一気に仕込みのチャンネル数が倍になりましたね。「もう充分ですよ」って言ったんですけど、無駄な抵抗でした。途中でキレそうになったこともありますね。
こんな調子なんで、『エヴァ』やるときは毎回「逃げようかな」って思うんですよ(笑)。今回も逃げようと思ったんですが、セッティングをしてくれたキングレコードの人たちにも悪いしなあと。

インタビュア
庵野総監督が音響監督を兼任されて、その辺の指示がダイレクトになったことも、こだわりの要因ですか?
野口
それに関しては、今回からというわけではないですね。映画の『夏エヴァ(THE END OF EVANGELION)』のときからかな、直で指示が出るようになったのは。
その前の『ふしぎの海のナディア』から庵野さんとはツーカーだったので、間をすっ飛ばして直に話は聞くようにしてたんです。選曲も庵野さんがやってるくらいですし、誰か音響監督が入るよりは庵野さんが直に言う方が、「こうしたいんだ」という指向が現場のスタッフにも伝わりやすいんです。
そういう意味では大きく変わってはいないと思いますが、明らかに過剰にはなりましたね(笑)。

効果音の立場と映像の違い

インタビュア
効果音の作業とは、どの段階から始められるものなのでしょうか。
野口
画コンテいただいた時点から、一応のプランは考え始めました。
第6の使徒が前とは違うというのは、一年前(二〇〇六年暮れ)にあらかじめ聞いていたことです。
ただ、そのときはCGになるということと、パカパカ変わるという程度の曖昧な情報しかなかったので、俺の頭の中には「プラスチックのトランプをめくるような感じかな」というイメージがあって、『エイトマン』のキュルルって感じで走るときの音をイメージしてました。
でも、完成品では全然違う音になってます。画を見た時点で「これは違う」と思ったし、つながっていく連続音じゃなくて、変わり方も一定してなかったですよね。
最終的に用意していったパターンは三つあって、そこから声っぽいものと生物っぽい音と、二つに絞りこみました。結局、シーンごとに使い分けています。

インタビュア
声というのは、女性の声のことでしょうか?
野口
あの使徒はTV版のときから「女性の声で飛んで来る」という絶対的な指示がありました。
TVの時は最初だけで、後の方はあの声じゃないんですが、今回はモーフィングみたいな動きになったので、「要所要所で声を入れていこう」と。俺としては最後にやられる時、もう一度だけ声を使うようにしたかったんですが、ビーム出すところも全部叫び声を使っています。
こっちの考えたプランは、ことごとく覆されてますね。

インタビュア
あの声は、どうやって作ったんですか?
野口
声自体は素材がありまして、それにいろいろな加工をしています。声を使うときに自分で裏声を出す場合もありますが、それはあまりやりたくないので、今回は使ってません。
元の音はとってありますから、「前の時はちょっとショボかったかな」なんて反省もあるので、自分なりに修正しつつ今風に加工してます。

インタビュア
変形が閉じるときには、金属音も入っていますよね。
野口
あれは俺なりに「変形しました」という決めの音を入れてみたかったんです。監督からも特に何も言われませんでしたね。
画がCGになると、どうしても音も細く聞こえがちになるんです。厚くしてるつもりでも、どうも細く感じられるようですね。ですから、どこかに重い音、芯のしっかりした音を入れておくことで、より決まってくるわけです。

インタビュア
ドリルにも、面白い音がついてますね。
野口
「どうやって穴を開けてるの?」って真剣に聞きましたよ(笑)。今回は地面を吹き飛ばしてる感じなので、前のように「いかにものドリル音」はやめたほうがいいだろうと。
吹き飛ばして塵にしていく感じと声的な要素と、ビームみたいな音を重ねて落ち着かせた感じですね。あれだけで何十チャンネルにも音を重ねてます。
カットの呎が短いから疲れるんですよね。「もっと長く見せておけよ」とか「カメラ切り返すなよ」とかよく言ってますよ。特に「カメラ追うなよ」と。
たとえば発射されたミサイルが、画面左の方へ行くとしますよね。被写体がフレームから見えないところに移動しきって抜けてくれれば、「バシャン、ゴー!」って左の方へ鳴らしながら流せるんだけど、カットを変えずに全部カメラが追いかけていくと、被写体が常にセンターに来てしまうんです。
すると音も真ん中にせざるを得ないので、移動感が出ないんですよ(笑)。
無理な注文に聞こえるかもしれませんが、効果音の立場としてはそういう理屈なんです。「次回は聴かせどころをもうちょっと長く用意してね」と、よく言ってました。

電車の進行音へのこだわり

インタビュア
音の立場からの、そうした提言はなかなか興味深いですね。
野口
今度このインタビューに使ってる録音機を、作業中の俺の部屋にずっと置いてみてほしいですね。
手を動かしながらずっと文句言いっぱなしなので、面白いですよ(笑)。役者さんにまで文句言ってますからね。
たとえば「三階建てくらいのでっかいトラックの横を歩きながら会話」なんてシーンがありますよね。あのシーンのテストの一回目では、画の印象のままレベルをまったく抑えないでSE出してみたら、セリフも音楽も全然聞こえなくなってしまったんで、「ヤバイ!」と思ったんです。
そしたら後ろで庵野さんが「いいねえ、野口ちゃん!」ってニコニコと(笑)。「違うんだよ、NGなんだよ!」と。 
列車が山のように集まってくるところも、一回聞かせたら「音の数が少ない」とまた言われたので、「この野郎!」と思って、ものすごい量にして出して聞かせたら、「いい。今年で一番いい!」って言われてあわてました(笑)。そこから抑えるのが大変で。

インタビュア[/b]
やはり結局、好みは迫力・増量方向なんですね(笑)。
野口
「DVDでは電車のSEだけがたっぷり聴こえる特典映像作ろう」とか、わけのわからないことを言い出して盛り上がってたくらいですから(笑)。本当に嬉しかったみたいですね。
あのカットも本来は三十秒くらいあって、電車がものすごく遠くからゆっくり来る画になっているそうです。俺としては、その方がやりやすかったんですけどね。
ともかくすべての物量が増えてしまって、本当に大変になりました。爆発にしても発射にしても、昔の比じゃないですからね。ほぼ同時に「ドン!」「ドン!」と来られると、音と音が近すぎて歯切れが悪くなって困るんですよ。
どれかを聴かせたいなら、どれかを棄てないといけない。いつもそことの戦いです。あるいは音があっても主張し過ぎないように配置する。それが一番難しくなりましたね。

インタビュア
確かに兵装ビルの大砲も、ものすごい物量でした。
野口
そのくせワンカットが短いでしょ(笑)。せめて同じものが同じタイミングで動き始めるんじゃなく、バラバラに動いてくれるとやりやすいんですけどね。
CG的には難しいことなんでしょうか。同じものにあまりに異なる音をつけると違和感が出てしまうので、似たような音で違うものに聴かせつつ、同じものが動いているようにも感じさせないといけない。それって、ものすごく矛盾してることなんです。

インタビュア
それにしても、電車はやはりこだわりのシーンなんですね。
野口
庵野さんが鉄ちゃん(鉄道系趣味人)だとは知りませんでした(笑)。電車に対しては特にうるさかったです。車種はもちろん指定があって、音がこう変化するというポイントまで詳細なプランがあったんですよ。
「ウイーンと上がっていく感じを入れて」と言われましたが、ピッチがどんどん上がり続ける状態のまま音を長くするのも、これまたかなり難しいことですからね。あのロールはともかく大変なことばかりでした。

インタビュア
電車の音は、シンジとレイの名前を決めるイメージシーンにも印象的に使われてまいしたね。
野口
あのシーンは、「『式日』のときDVカムで録った音で」と言われたので、加工してきれいに直して5.1chにして、さらに低域を増強してみたんです。それを聞かせたら、「これじゃうるさすぎる」って、せっかく足したものを全部取って原音に戻していくんですよ(笑)。
サブウーハーやめて、後ろはいらないと前だけにして、フロント3ch分は多いとセンター分を取り去って……。最終的には不要なノイズだけを取って、イコライジングである程度芯のある音にして、それも小さ目に聴かせるということで、ようやくOKをいただきました。

芝居に対応した細やかな音づけ

インタビュア
他の印象深い効果音についても、うかがっていきたいと思います。初号機の初出撃シーンでは、使徒にやられて骨が折れるような生っぽい音が鳴りますよね。
野口
あれはTV版の時に決めた音なんです。「エヴァンゲリオンはロボットじゃないので」と、一番最初に注意された記憶があります。
あの折れた音は大好きですね。木を折っても、あんな音は出ないんですよ。ある素材を使うんですが、作り方は秘密です。
TV版の音とはいえ、当時の音そのままでは絶対に通用しないんです。やり直しておかないと、必ずダメ出しになります。
『新劇場版』では、前半のロールでさんざん言われたおかげで「ダメが出るポイント」の予想がつくようになりました。ですから、後半のダビング用の仕込みでは、先にTV版から直しておく部分を増やして対応しました。

インタビュア
初号機のガトリング砲は新劇場版用の新兵器で、薬莢の落ちるところなど派手ですが、あの効果音はどういう感じで作られましたか。
野口
あれも摩砂雪さんからいろいろな注文が来て、バランスに苦労した部分です。
「回転音をもう少し聞かせたい」と言われましたが、回転中は安定して音も一定しているから、結局は撃ち終わって止まる音しか立たないんですよ(笑)。「撃つ音」、「命中音」、「回転する音」、「薬莢が飛び散ってる音」、その音量を全部上げろと言われるんですよ。
薬莢音のオフ(画面に写っていないものの音)はさすがに不要だろうと思って小さ目にしてたのに、「薬莢はずっと飛び出してるから」って理由で追加(笑)。
普通の銃だったらチンチンという音が聞こえ続けてもおかしくないですが、あれはでかいですからね。撃ち始めはアップなのに、すぐ引きの画になるのも困りました。
初号機と使徒との間が離れてるので音の位置関係を合わせたかったんですが、難しかったですね。1カット1カットが短いし、トータルでつながったイメージが乏しくならないようにするのに、相当苦労しました。

インタビュア
「ヤシマ作戦」では、射撃は一発ずつですよね。むしろその方が良かったとか?
野口
そうですね。あれのほうがやりやすかったですね。陽電子砲はもともとの音が大好きだったし、チェックしてみたら、「これって完璧だよな。これ以上どうしろって言うんだ」と感じてしまったんです。
それなのに同じだとダメ出しが出るから、自分で直さないといけなくなって、それがまたつらかったんです。若い時の勢いもあって、今なら絶対にできないような音をつけてますからね。
そういう理由もあって、元の音で良かったものはなるべく軸に置くようにしました。
それと、「エヴァの音」として作ったオリジナルの音については、聴いた感じがあまり変わらないよう注意しましたが、それも一部は「変えてほしい」と言われたりしましたね。

インタビュア
直すときは、素材を流用せず、考え方だけを使って新たに作り直すことになるのでしょうか?
野口
いえ、元の素材は必ず流用します。元の音がどうやって作った音だったか分かる場合は、原音までさかのぼることもあります。自分の音ですから、だいたい作り方は分かりますけどね。

インタビュア
綾波のアパートの杭打ち音は、印象が少し違って聞こえましたが。
野口
あれは『DEATH』の5.1chのときに一番変えた音ですね。「映画にしたい」という気持ちがあるので、やはり低音成分が欲しいということになって、今の感じになりました。
音楽いっさいなしで効果音の芝居だけで見せるシーンですから、あの杭打ち音がポイントになってるわけで、しっかり聴かせようと。変えたことについては、賛否両論のようですね。

インタビュア
それと、プラグスーツのゴムのような音が意外に際だって聞こえました。
野口
あの音は、貞本(義行)さんからも誉められました。前からつけてる音ではあるんですが、プラグスーツ着たまま細かく芝居するシーンとして目立ったからでしょうね。
TV版のときは生音として雰囲気でつけてましたし。

インタビュア
プラグスーツってウルトラマンのようなゴムのウェットスーツなんだと、あらためて材質感に気づかされたんです。
野口
昔は衣擦れの音はつけなかったけど、今は当たり前になってるとか、効果音サイドの生音に関する考え方も、だいぶ変わってきてますしね。
空気を抜いてシュリンクする材質なら、本当はあんなにゴワゴワいわないだろうと思いますけど(笑)。着替えのシーンだし画も変わったことで、よけいに新鮮に聴こえたのかもしれません。
もともとセリフ自体がそう多くない作品なので、細かい芝居に対応した音づけは前からきっちりやってるつもりでしたが、今回は特にそうした部分については細かく指示されましたね。

導入として良いステップだった『序』

インタビュア
劇場の大音響で見直したんですが、効果音はやはりすごく良かったですよ。
野口
ありがとうございます。自分的には七十五点くらいだと思っていますが、皆さんからそう言っていただけて、嬉しいです。周囲からだいぶ注目されましたし、やっぱりヒットはありがたいですよね。

インタビュア
『序』の効果音作業の感想を総括すると、どんな風になりますか?
野口
やりきった充実感はすごくあります。ただ、最初から最後までずっと大変でしたね。永くやってきた劇場用の仕事でも、ベスト3に入るくらい大変だった気がします。
前の『エヴァ』にしても、ここまで大変じゃなかった気がするくらいです。前のDVDの5.1chのときもそうでしたが、一度確立して認められたものを踏襲するのは、どうしても独特の難しさがつきまといますね。
やっぱりゼロから作る時の方が楽ですね。かと言って、まったく新しい効果音にしてしまうのもどうかと思うわけですし。

インタビュア
『破』以後、こうしてみたいということはありますか?
野口
次からは話も軸からずれていくし、画もだいぶ変わってくると聞いたので、そこで頭を切り替えるつもりです。効果音も踏襲という考え方を棄てようかなと。そういう意味では、今回は導入として、とてもいいステップだったと思います。
効果音もお話と同じで、ちょっとずつ変えていってもいいんだってことですよね。
こちらも庵野さんの操縦術が、だいぶ分かってきましたよ(笑)。新しい会社を立ち上げての一発目ということもあって、みんなかなり寛大な気持ちで庵野さんに接してたところもあるし、お互い力を入れすぎたと思うところもあります。
結局、「やっぱり庵野さんは庵野さんだ」ということに、みんなようやく気づいたんじゃないのかな(笑)。次からは、改めていい感じになっていくと思います。

インタビュア
映画としてのご感想はいかがでしょうか。
野口
画が格段に良くなってますよね。庵野さんも「これ観ちゃうとTVシリーズはもう観られないよね」って言ってましたが、確かにそのとおりだと思いました。
「きれいだな、いい画だな」と思いながら作業できたのは救いですし、「こっちも負けられないぞ」と思えて幸せでしたね。そこはさすがだなと。見せ方がやっぱり上手いんですよ。もうちょっとだけカットを長くすればいいのにって、音の立場からはそれだけです。
そう言えば呎が伸びたカットもありました。シンジが出てきて第6の使徒にやられて、すぐ引っ込むシーンがありますよね。病院に送られたときのカットがすごく早くて、最後にハッチが閉まってランプが光るとき、余韻がなくて音が途中で切れちゃったんですね。
庵野さんに「せわし過ぎるから、もうちょっとゆっくりにならない?」って話したら、これは伸ばしてくれました。せわしさを出したいという演出意図も分かるんですが、もう少しゆっくりでないと、何の音か分からなくなってしまうんですね。
頭からケツまで、どのカットでも必ず何かありました。もしDVDのコメンタリーやらせてもらえるなら、画を観ながら1カットずつ全部文句言えますよ(笑)。
そんな印象ですから、次からはこっちもフンドシをしめて戦おうと思っています。
(二〇〇七年十一月七日/スタジオカラーにて)

PROFILE

効果:
のぐち・とおる


1961年生まれ。滋賀県出身。アニメ・サウンド・プロダクション所属の音響効果マン。庵野秀明総監督との仕事は『ふしぎの海のナディア』(1990年)から。代表作は『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)の他、『彼氏彼女の事情』(1998年)、『人狼 JIN-ROH』(2000年)、『フリクリ』(2000年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ハウルの動く城』(2004年)、『トップをねらえ2!』(2004年)、『立喰師列伝』(2006年)など。

Joseki
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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Joseki » Sun Mar 21, 2021 5:00 am

全記録全集:序 インタビュー:大月 俊倫
取材・執筆:氷川竜介

エグゼクティブ・プロデューサー:
大月 俊倫


作品のシンボルでもある汎用ヒト型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン、そしてネルフマーク。
その卓越したデザインは、TVシリーズ当初より注目の的であった。
『新劇場版』の制作にあたり、山下いくと自身の手によってこれらメインアイテムと陽電子砲などが再デザインされた。
デザインワークにおける「REBUILD」は、はたしてどのように実行されたのか?

『新劇場版』の出発点となった会話

インタビュア
今回の取材趣旨としては、せっかくカラーが自主的に出す本なので、あまり飾らずに、しかも後世の記録に残るようなお話が聞けたらなと思っています。
大月
であれば、映画公開までに受けた取材で僕があえて外してきた話からしましょう。それは資本関係の話なんですよね。前の劇場版はTVシリーズが大ヒットしたということで参加してくださった大手企業さんが非常に多かったんですが、今回は僕にとって逆のことが目標になりました。まず庵野さんの方から提案がひとつありまして、「本来アニメーション作品はアニメ会社がすべて責任を持って作っているわけだから、それに関する諸権利、つまり著作権、原盤権、所有権は、すべて包括してアニメ会社が持つべきではないのか」と。つまりは前の『エヴァ』で、俺とお前で始めてしまった製作委員会という悪辣なる制度を、俺とお前でやめるんだという話が、二人の間で最初にありました。

インタビュア
始めた人間だからこそやめられるみたいなことですか。それはものすごい覚悟だと思いますが。
大月
私も氷川さんと最初にお会いしたのは二十二歳ぐらいの時で、長いおつきあいですから分かっていただけると思うんですけど、売れる作品だから商品を作るという発想が嫌なんですよ。たとえばサントラ盤って僕はずっと一枚でいいし、作品が終わってからでもいいから、きっちりメインの全曲を入れて出すべきだとずっと思ってるんです。でも売れるからってだけで、サントラ盤を二枚も三枚も出すような商売(※1)があの頃から始まった。そうではなくて、「いい商品だから客が買う」ということでなければおかしいという話を、まだ青臭い私が氷川さんとよく話していた記憶があるんですよ。
 それで、庵野さんの方からそういう話が出たときに、自分は営利を目的とするキングレコード、スターチャイルドという会社の責任者で、ガンジスという会社も経営していて、いわゆるそういう思想と対極にある立場でありながら、ことこの『エヴァンゲリオン』と庵野さんの仕事に関しては百パーセント同調したわけです。だから、庵野さんが新しい会社を立ち上げることになって、スタジオを作るという仕事と並行して、僕の方ではあらゆるところへ出資を断わりに行くということから、今回の『新劇場版』の作業が始まったわけです。

インタビュア
『エヴァ』の名前を出せば出資者はいっぱいつかまったはずなのに、逆だということですか。
大月
まったくそう。よく僕は他の作品では新宿の居酒屋で、スポンサーのお歴々に「まあまあ、よろしく頼みますよ」とか言ってお酒注いで、大人の仕事をして根回しして出資を集めてるわけですが、この本だからあえて言いますけど、そういう仕事が嫌になってたんですね。こういうことは、不毛であると。目的と手段がひっくり返ったと、はっきりと思ってました。
 それで『エヴァ』以降の十二年くらいやってる中で、「目的と手段と行動がまったくおかしい」というのを真っ向から言ってくれたのが、他ならぬ庵野さんだったということなんです。それは僕が自分で同意したら、いわゆるレーゾン・デートル(存在理由)がひっくり返るような話なわけ。だけど、「そうしよう」って即答した。私と庵野で始めた『エヴァンゲリオン』が当たったので、メーカーが権利保有してスポンサー枠買ってアニメ会社に金出してみたいな製作委員会が流行った。だから、これだけのアニメの本数、これだけの経済、これだけのビジネスが成立して、資本主義的な観点からいうと非常に潤ったと。それはひとつのエポックメイクな日本の文化的事業だと思うし、会社に対しても社会的に利益貢献したと思う。だけど、これを始めた自分が一番嫌になってたんですね。

インタビュア
ルーチンになってしまったから?
大月
まったくそうですね。僕、何でもルーチンになる直前までやるのが好きなんですよ。それは本当に楽しいんだけど。

インタビュア
立ち上げるまでが勝負だみたいなことですよね。自分もずっとそんな仕事だったから共感できますよ。
大月
そう。だから当たり前みたいに酒飲んで、「すいません、どうかお願いしますよ」なんて言うのが本当に嫌で嫌で、なんて自分は意地汚いことやってんだと。こんなことをやるために生まれてきたんじゃないだろうと。もっと人に尊敬されてちゃんと支持される大人になろうとね。氷川さんとお会いした若い頃ってそう思ってたはずなの。それがこんな歪んだ形で発露して、しかも周りの人間は誰も否定しない。仕事だからってね。青臭いと言われるかもしれないけれど、儲かってんだとか何万売ったとか、上場したとか会社大きくしたとか合併したとか言ってる人間見るたびに、俺は正直言うとヘドが出そうだった。だから庵野さんの方から、「権利全部保有してやりたい」って言われたとき、一も二もなく「OK! やりましょう」と言った。だから俺にとっての始まりは、まず出資を断わるところから(笑)。

製作委員会方式へのカウンター

インタビュア
大月さんにとっては、今回はその庵野さんの言葉を実現することが、最大の仕事だったってことになるわけですね。
大月
まさにそうですね。それは庵野氏の理想と思想の実行であり実現だった。でも、これは同時に私にとっての自己実現の方法でもあったんです。『エヴァ』ってモンスタータイトルだからそんな真似もできたし、出資を断る片方で、同時に他のタイトルに関してはやっぱり「お願いしますよ」って出資のお願いして回ってるわけだから、二律背反の部分はありましたね。

インタビュア
けっこう前から嫌になってたんじゃないですか。
大月
はい。うちのスタッフ、アニメに関わっている人間は九割以上、もしかすると全員が『エヴァ』以降で入ってきたし、そもそも今の業界ほとんど全部がそうですから。おそらくまずは『エヴァ』の常識ありきで、それに誰も疑問を呈しないわけ。だけど、僕や氷川さんがやってた頃ってさ、こんなことあり得なかったでしょ。

インタビュア
確かにあの頃は一つ一つ違う作品に試行錯誤で、全部手作りでしたからね。
大月
ねえ。だから一九九五年の『エヴァ』もさ、「大月、オモチャ会社の言うこと聞かなきゃTVアニメって作れねえのか、俺はそんなの監督したくないんだ」っていうことが発端だしさ。結局、後から追随する人たちって、俺らがこうやって考えたことの最先端で見えてる「権利の保有と利益」という部分だけに飛びついてるんだよね。そこに至るまでの庵野の高邁な思想を理解する人は、誰もいなかったよね。これはいまだにいないと思う。「エヴァ当たったんでしょ、儲かったんでしょ」って必ず言われるから。

インタビュア
企業だから儲けることは大事だけど、そこがゴールじゃないって話ですよね。お金は価値の指標に過ぎないので、まず価値が生まれない限りお金は生まれないというのは、なぜか企業内では理解されないので、私もずいぶん苦労しました。特に売り物が百パーセント価値観のアニメでは、ごく当たり前のはずなんだけど。
大月
最初からお金勘定するでしょ。それですぐに「目標がここで」とか「委員会的には委員会的には」なんて言い出して、「何が委員会だ、それでいいんかい?」みたいに思うよ(笑)。できたアニメ見もしないで、よく言えるね。もうメチャクチャだよ。それに対する今回のほとんどカラーの自主制作、自主宣伝、自主配給っていうのは、真っ向からのカウンターなんですよ。だから、本来の映像芸術の商品化のあるべき姿に立ち返ったということでもあるんだよね。

インタビュア
そういう革新の中でのキングレコードの立場は、どうなったのでしょうか。
大月
今回からキングレコードは、ただの販社(販売会社)ですよ。それが本来あるべき姿だし。ただ正直言えば、僕はもうちょっとフィフティフィフティのバランスが夢なんだけど。でも、メーカーが金出して好きな声優キャスティングして、好きなアーティストに歌わせてって平気でやってるのを見てると、それでいいのかと。昔はそういうのは全部アニメ会社さんからメーカーに指定があってやってたけど、そういう歴史を知らないからね。ホン(脚本)読みには膨大な映像的な知識、SF的な知識、あるいは文学的知識、そういう素養を持っていないと太刀打ちできないはずなのに、何にも勉強しないし。サラリーマンで入って来て「この声優さんに会いたいから」なんて萌え系の企画立てて、「トホホ」とか思うしね。なんで悪い方に悪い方に肥大するのかってね。

誰も見たことのない映像を
目ざして


インタビュア
ちょっと話を戻します。さっきの発端の話って、いつぐらいだったんですか。
大月
今二〇〇五年ぐらいですかね。庵野さんが「ちょっと会える?」って毎週電話かかってきて、恵比寿あたりで毎週飲んでた時期があるんですよ。それは特撮ものを1クールやろうって企画進めてて、ぶっちゃん(出渕裕氏)(※2)もいっしょに三人でしょっちゅう会ってた。それで轟木さんが入ってきたんだよね。でも頓挫して、轟木さんはじめスタッフもいるから何かやんなきゃいけなくなってね。だから庵野さん、もともと何かやる気にはなっててモチベーション上がってたんだよね。それで一気に火がついちゃった。

インタビュア
『エヴァ』も飲み会の中で出た話なんですか?
大月
いや、メールがいきなり三行ぐらい来て、「エヴァ、三部作で映画。TVシリーズ総集編でやろう」とかって。「じゃあ、電話しようか」と思ってたら、すぐ電話かかって来た。だったら電話で言えばいいじゃん(笑)。

インタビュア
『エヴァ』も飲み会の中で出た話なんですか?
大月
いや、メールがいきなり三行ぐらい来て、「エヴァ、三部作で映画。TVシリーズ総集編でやろう」とかって。「じゃあ、電話しようか」と思ってたら、すぐ電話かかって来た。だったら電話で言えばいいじゃん(笑)。

インタビュア
でも、あえてメール入れて来るところが庵野さん的なわけですね(笑)。
大月
電話口ですごく興奮してまして、「すぐやろう!」って。だから俺も「よしよし、やろう」って。本当に単なる総集編だったわけですよ。最後だけは変えて、パート2とか次につなげるものやろうって話だったの。こうやってドタバタやってるうちに、どんどん時間とともに変わっていったんだよね。ただね。本当は唐突な話じゃなくて、ちょっと話にロジックがあるんだと思う。実写企画が潰れた段階で、庵野さん「どうしようかな……」って、かなり呆然としていたわけですよ。

インタビュア
潰れた理由は、何だったんですか。
大月
庵野さんの頭の中にあるイメージが、すご過ぎたんですよ。脚本段階でかなりレベルの高いものを求めていたので、それに応えられる脚本家が日本にいなかったんですよね。庵野さんは映画監督として一番必要なモンタージュの才能、特に映像の記憶中枢が異常に発達している。それに関してあの人はやっぱり天才だと思う。それともうひとつすごいのは、「誰も見たことのないものを作ろう」ということを本気で考える人なんだ。そんなものって、あり得ないわけですよ。地球上の歴史の中で、誰も見たことのないものを作った人間は一人もいないんだ。それが作れるのは、神様だけなんですよね。だけど、あの男は本気で誰も見たことないものを作ろうと思ってた。となれば庵野さんの脳みその中にしかないわけだから、そりゃ誰も脚本書けねえわと(笑)。たとえばウルトラマンにしたって、良い宇宙怪獣が悪い地球怪獣と戦うって発想がスーパーマン的な宇宙人に変わったわけで。必ず何か前にあるものが段階ふんで形変えてくわけじゃん。技術的には昭和29年の『ゴジラ』があったからとかさ。ところが、庵野さんのやろうとした特撮TVシリーズって、そういう段階を一気に飛ばそうとしたんだね。

インタビュア
まあでも、そうしたい気持ちは分かりますよ。
大月
庵野氏って基本的に誰かと組んで、人のものにダメ出ししつつ、ブレストやって足してく作り方でしょ。そのとき、庵野氏のモンタージュの才能に見合う返しが不可能だったんだ。これは誰のせいでもないよ。それで落ち込んでたから、よけいに燃えたんだろうね。

怒濤のような二年間のドラマ

インタビュア
『新劇場版』はパチンコのエヴァブームもあって、運が良かったですよね。
大月
パチンコにOK出したのも庵野さんとガイナックスの神村(靖宏)さんでしょ。確かにあれがなかったら、今回のヒットの道筋もなかったよね。実際、「エヴァンゲリオン? 昔あったね」みたいな感じだったし。パチンコでわっと来たら、まずDVDレンタルがすごく伸びたんですよ。そしたら今度はセルがばっと伸びて、一時期うちの新作抑えて、売上一位から十位まで全部『エヴァンゲリオン』(笑)。これはすごかったですね。今回の映画も、前からのファンは二割ぐらいという分析でしたね。要するにパチンコ以後、知った人が来ている。

インタビュア
どんな駅前のパチンコ屋さんにも『エヴァ』のビジュアルありますからね。その宣伝効果たるや……。
大月
その辺もあって、庵野さんの中では虚像が実像に結んだんだと思う。

インタビュア
パチンコについては前に神村さんに聞いたんですが、武蔵小金井にあった時期のガイナックスへ行く道の途中にパチンコ屋さんがあって、「このノボリにエヴァもあるといいよね」って、ある日庵野さんが言い出したのが発端だそうです。
大月
あ、そうなんだ。やっぱり庵野氏の発想とか考え方って、すごいね。偉大な映像監督であり、同時に偉大なマーケティングプロデューサーでもあるよね。

インタビュア
そうなんですよ。しかも直感力ですから、不思議なんですよ。
大月
やっぱりどっか霊感めいたところがありますよ、あの男には。

インタビュア
二〇〇五年にそういう下話ができて、二〇〇六年がその準備期間ということだったんですか。実はそんなに昔の話じゃないわけですけど。
大月
ないです。庵野といっしょに事務所立ち上げたのが、確か五月で。僕も轟木さんも、正直言ってあまりにも密度の濃い日々だったんで、すごい昔に感じるけど。わずか二年のドラマだったんです。いやあ、なんだか四、五年の密度があるね。こんな濃い時間は、本当になかった。あっという間だったけど、人間って集中したら何でもできると思ったな。公開前のインタビューではよく「ジブリが七年かかったことを庵野は一年でやった」って話をしてたんだけど、どこかで庵野には劇場の大ヒットというゴールが見えてたんだろうね。

インタビュア
それはなんだかね……。「あれ? なんか、この人見えてる感じがする」って、ずっと感じてましたね。公開直前でみんなが「できないんじゃないか」って心配してたときも、ダビングスタジオでかけてくださった挨拶の言葉で、「あ、こりゃ完成するな」と分かっちゃった。そこはなんだか珍しい、非常に不思議な感覚でしたね。
大月
俺の方はさ、もう正太郎くんに操られる鉄人状態ですよ(笑)。「ここ借りて」って言われて「はい」って契約して。「何月までにね」「場所はここで」って、全部庵野さんから具体的な指示が逐一入りましたから。

インタビュア
やる気満々ですよね。立ち上げの順番としてはまず事務所を作って、その後、あらためてスタジオ作ったと。
大月
スタジオは九月だね。

インタビュア
やはり一年ちょっとしか経ってませんよ(笑)。
大月
そうなんですよ。その間、僕と轟木さんの前には毎日、何かドラマが常にあった。いつも対会社、対人関係が入れ代わり立ち代わり。内部のスタッフにもどうのこうのって常にあったし。あとこっちの方に振られたのは、テーマソングだよね。「宇多田ヒカルさんで、どう?」って大テーマを庵野さんから持って来た。

インタビュア
すべて庵野さん発なんですね。
大月
もう、私はただの鉄人ですから(笑)。今回の『序』で私の方から庵野さんに言ったのは一個だけで、「だったら、会社作ったらどう?」って。それ以外は庵野さんがみんな自分で考えて自分で決めて、私をコントロールしたと。地球上で私に命令できるのはあの男だけだからね。年はあんまり変わらないけど、ずっと大人だから言われて嫌な気全然しないし、OKだった。宇多田さんにしても受けるだろうなと思ったけど、むしろ気になったのはそれ以降だよね。基本的に庵野さんも僕もそうだけど、主題歌とかテーマソングの入っていないのはサウンドトラック盤って言わないんですよ。そういう商品、多くなってるけどね。

インタビュア
サントラ盤だと思ったらイメージソング集だったり。
大月
宇多田さんEMI所属だから、歌の入ったアルバム、サントラ盤が出せないと、それがまずあったよね。もうこれは私の生き方に反するし、庵野さんも同じことを言ったわけよ。「じゃあ、いざとなったら俺が宇多田さんの事務所とメーカーの人に土下座するから」とまで言ってくれてね。だけど、土下座させるわけにいかない。逆にそういうこと言って私をね、脅迫してるわけ。「まさか俺に土下座させねえよな、分かってるんだろうな」みたいな、そういう変化球投げてんだよな。私も侠気(おとこぎ)に感じたからさ、キングレコードでやらずに、ガンジスの名義で動くようにしたよ。だから、使いっ走りから何から全部一人でやってました。四つどもえ、五つどもえみたいなややこしい関係がある中で、全部バランス取って調整して、最終的にはサウンドトラック盤に宇多田さんの歌がフルコーラスで入る。これを自分の目標にしたんですよね。

高品質の作品づくりと
利益配分の両立


インタビュア
会社づくりに関して、他にはどんなことをされましたか。
大月
ジーベックの西沢(正智)さん(※3)が小笠原さんを連れて来てくださって、スタジオの動きはそこからですね。ただ、現場を作る部分に関しては、僕はあまりお役に立てなかったんですよ。それはいまだに忸怩(じくじ)たる思いがありますね。あとは小笠原さんがすごくがんばってくれて、次第に人も集まって来て。本当に著作権のことからスタジオ設立まで、完全に基盤を固めるのに実質一年でしたよね。そこに鈴木(俊二)さんとか本田(雄)さんとか松原(秀典)さんとか、もう日本の至宝のようなアニメーターが入ってくれてるわけで、あとはどんどん積み重ねていくだけだから。普通はこの基盤作るのに時間かかるわけですよ。ジブリで七年だから。

インタビュア
会社を作ってからは、庵野さんとはあまり話はされていないんですか。
大月
そうですね。そこからはもう轟木さん、小笠原さんの時代になるんで。

インタビュア
質問の方向を変えると、前のTV版の時と今回って一番変わったことって大月さんから見て何でしょうか。
大月
ずばり、雰囲気が明るい。庵野さんも明るいし、この仕事の現場も明るいし、シチュエーション自体が明るいと思う。

インタビュア
そこが一番大きな差ですか。
大月
うん。十二年前の『エヴァ』も確かに当たってはいたけれど、それによるメリットの享受ということに関しては、やはり会社関係の利益が大きくて、基本的に庵野さんおよび苦楽をともにしたスタッフの喜びの共有ではなかったような気がする。そこが今回との一番大きな違い。今日、何を話そうかなと思って考えながら来たときに、一番はそこだろうなと思ったの。
だから、今回は庵野さんと庵野さんを囲むスタッフの結果に対する喜びの共有、利益の共有、享受ということに関して、本当にうまくいったと思う。庵野さんの掲げた目標と、それに対して俺が「会社作ったらいいじゃん」って言った話、そこから始まったことに関して見事な放物線を描いてゴールに行った。
結局、庵野さんが前に忸怩たる思いをしたのは、絵を描いて、脚本を書いて、苦労して徹夜して、食うもの食わずでアニメ必死に作ってる人が潤わずに、儲けていい目みてるのが何もしてない人間、権利だけ持ってる会社の人間だってことなんだよね。要するに利益の分配がしかるべき人材、人物にきっちりと行って、努力に対して報いたいっていうのが、本当にやりたいこと。その歪みをまず是正するということから今回は始まっている。
映画が大ヒットしてこれだけ世間から好評を持って迎え入れられて、結果自体にもものすごく達成感があった。それは僕にとっても庵野さんにとっても嬉しいことなんだけど、それ以上に轟木さんや鶴巻、摩砂雪、二人の監督、その他いっしょにがんばってくれたいろんな人のところに利益の共有、権利の共有ができたっていうことが、庵野さんにとって今回一番嬉しいことだろうと思いますね。
だから庵野さんにとって、今回はふたつのゴールがあったはずですよ。いい映像作品を作ってそれをヒットさせるということと、自分に人的に共鳴し苦楽をともにしてくれた友人やスタッフに対して利益を共に享受すること。監督という部分で映画を当てて、社長という部分で利益配分を達成して。しかもいい作品と対外的に認められ、たくさんの賞をいただける作品になった。これはすごいことですよね。

インタビュア
普通、両方はできないですからね。前に評論家の竹熊健太郎さんとも話をしたんですが、実は百年近いアニメーションの歴史の中でも、作品づくりだけじゃなくて配給権とかそういうところまで自分で行動して自己実現した人はいないんじゃないかって。そういう話になりましたね。だいたい途中でつまずいたり、喧嘩別れになったり、うまくいかなかったりしてるはずで。
大月
そうだよね。私も裏の裏まで分かってますからあえて言いますけど、その種のドロドロしたようなこと、今回はまったくないですよ。それはもう、十二年前にあまりにもあったことだから。それに関してどんだけ庵野が傷ついて嫌な思いして、その傷引きずっててつらかったかって分かるから、私ももうそれだけは今回絶対にしない。きれいに泥を払拭するってのが、私も自分の仕事のテーマとしてあったんでね。

インタビュア
根拠はないんですが、作品の印象にもそういう姿勢の変化がなんとなく反映しているような気がしてて……。
大月
そうそう。いろんな方が感想を僕に言ってくださってるんだけど、「観てすごく清々しかった」、「すごくいいものを観せてもらった」というのが多いよね。で、劇場で最後に拍手が起きたっていうのも、もちろん映像的なものに対して拍手を贈りたいという気持ちはあるだろうけど、庵野とスタッフ全員が一丸となって、本来経済的システムの中でついて回るドロドロした部分を、どこまで全部きれいにして、ひたすらいいものを作ろうとしたか、庵野さん中心に発せられたその心意気が伝わったってことだと思うね。

インタビュア
映像ってね……。実はそういう気持ちが映るものなんですよね。
大月
うん、映ると思う。だから最後でばっと綾波のEVAが守ってこう助けに来るということ自体が、まさに今回のカラーの発生と成り立ちと結果そのものなんだよね。それで、そのカラーのスタッフや庵野の気持ちに対してお客さんが共感して拍手してくれたんだと。それはもう映画の出来じゃなくてね、生き方、考え方に対する感動だよね。映画って本当に正直だからね。

インタビュア
どういうつもりで作ってるかって、恐ろしいくらい正直に伝わりますよね。そういう意味でも、でっかい仕事だったんだなと。まだ『序』ですけど。
大月
前のときって、TVが終わって庵野さんが北海道をさすらったり、映画終わったら呆然としてたりしてたけど。今回、はつらつとしてヨーロッパに取材に行ったり、次の作品に取りかかったりしてるからね。「わあ、すごいな」とか思ってて。今回は私がね……逆に十年前の庵野さんと同じことになっちゃってね。

インタビュア
えっ、燃え尽きたんですか?
大月
燃え尽きちゃった(笑)。

インタビュア
いろいろ大変だったでしょう。大丈夫ですか。
大月
映倫通した後は、呆然としてたから。公開日はもう、本当にパンツ一丁になってべたっと寝てて、起きられなかったからね。本当に綱渡りだったし、最近でも、まだやっぱり魂は抜けてるよね。ただ、自分が始めちゃったという罪悪感はね……まあ、本当にちょっとだけですが、贖罪した気にはなりました。今回、命がけで死ぬ気でやったからですね。

妥協なき作品づくり、音づくり

インタビュア
いろんな苦労があったと思いますが、それをお客さんが拍手で迎えてくれたのは最高ですよね。あとまだ二回あるわけですが、若干ハードルが高くなったのかもしれません。というか、庵野さんご自身がまずハードル高くしようと考えますよね。
大月
うんうん。でも、逆にそうしてくれた方がいいしね。僕はやっぱり今の自分の身の周りの人間を見てて思うのは、「ハードル低くして、みんなで飛ぼう」ってのが多いじゃない。俺は反対なんだ。そうじゃなくて、やっぱりリーダーっていうのは自らハードル高くすべきだし。「俺も飛ぶからお前らも飛べや」と。
「ハードル低くする」ってのは、人の可能性を信じないってことにつながるから、それにはすごく抵抗があるんだ。高く飛べる人にとっては、本当に失礼なことだし、人格無視だよ。僕は少なくともキングレコードのリーダーとしては、ハードル高くしてる。すると、みんなが「意地悪だ」って言う。「いじめだ」って言う。「ひどい人だ」って言う。そうじゃないでしょうと。俺も飛ぶからいっしょに飛ぼうよと。あとからついて来てよと。
見てると本当に無個性である自分を堂々としてる。僕はそれも許せん。才能がなかったら、せめて生き方ぐらい個性的にしろと。その辺が一番つらいですね。

インタビュア
でも今回も『エヴァ』だから良かったってわけじゃないって話も、拍手の件とかで伝わる人には伝わったわけですから。ひとつ突破したわけで、いつか何とかなるんじゃないでしょうか。ところで大月さんは、試写でご覧になったんですか。
大月
うん、だからゼロ号試写観て。その後、映倫の検査官の人と見て、僕はそれっきり見てないです。ダビングのときに、何十回も見たしね。

インタビュア
ダビングといえば、音楽関係で大月さんが担当されたのは?
大月
音楽は、宇多田ヒカルさん関係だけ僕がとことんやりました。あとはうちの小川(智弘)さんと鷺巣詩郎さんでやってたし、録音現場の方は全部、庵野さんが大事なところは立ち会ってます。メニューとか楽曲の指示、こういった感じでとかフレーズ、フレーム、タイミング、長さ、リズム、テンポ、それは鷺巣さんの方に庵野さんがかなり具体的な指示を全部出してますから。だから、音楽の作曲は鷺巣さんですけど、選曲と音楽監督は庵野さんです。音まわりは全部あの人が監督してますよね。

インタビュア
大月さんもつきあっていて、庵野さんのその独特の音のこだわりって、感じられることが多いですか。
大月
うん。ダビングに立ち会っててね、「音、デカ過ぎ」って思ったのよ(笑)。あの人のいうことはさ、「音楽も上げろ、セリフも上げろ、SEも上げろ」って。この三つだけならまだ分かるよ。後ろでオペレーターが「何とかかんとか確認!」なんて言ってるじゃん。あのセリフが何十チャンネルって膨大な量あるんですよ。「あれも全部出せ」って言って、ミキサーの住谷(真)さんも効果の野口(透)さんも、「それはあり得ない」って拒否するんだけど、「全部出す」って強行するんだ。その上で、引き算していくんだよね。
溝口健二っていう映画監督が、庵野さんとまったく同じだったんです。役者さんから美術スタッフから、何から何まで、全スタッフ、キャスト、あらゆる才能から全部引きずり出す。あの人、討ち入りのない『元禄忠臣蔵』って映画(※4)作ったんだけど、松の廊下の実物大セットを作らせたんですよ、カメラに入らないところまで。

インタビュア
すごいですね。映画って見えないところはセット作らないはずだから。
大月
うん。だって全部作ったらね、お金かかるよ。画面に入るのはここからここまでだからって、キャメラアングルで逃げるじゃん。それで廊下切ってたりすると、「なぜ廊下が切れてるんですか」なんて言い出すらしいんだよ。それで全部実景として作らせちゃった。

インタビュア
監督としてリアリティの妥協点をどこにもつかっていうことですよね。
大月
そうそう。庵野さんの場合は「全部の音のフェードを上にあげて」なんだよ。「混ぜこぜになって聞こえなくなりますよ」って、まず言うよね(笑)。だから、普通の音響監督さんとか効果さんとかミキサーさんとかは、最初から混ぜこぜになる部分を遠慮して、妥協を前提としてやるんだけど、庵野さんの辞書には「妥協」はないの(笑)。まずは全部フルで出せと。
だけどその結果が、あのクライマックスの青い使徒との激しい戦いだからさ。あれは音楽演出と音響演出が、もう素晴らしいですよね。やっぱり一種の音楽ドラマっていうか、もう壮絶な音と映像と光と影のページェントになってましたよね。

インタビュア
あれはね……。映画にする意味がね。
大月
あったよね。

インタビュア
そうなんですよ。暗闇でまぶしい光と激しい音を浴びる、それがすごくて。
大月
そうそう。轟木さんとも話してたんだけど、あれはもう三菱未来館(※5)みたいなもんじゃないかと。

インタビュア
七〇年大阪万博のホリ・ミラー・スクリーンですか?
大月
うん。あのラスト十五分のページェントに関しては、非常に万博的というか三菱未来館的というか、円谷特撮的だったよね。昭和三十年代、四十年代の特撮映画のさ、後半が大パノラマショーみたいになるのに近い感覚がすごくあった。実際、今までの日本映画の中で考えると、前代未聞って言っていい気がする。結局、円谷特撮ですらあそこまでスペクタクルじゃないわけだからね。『地球防衛軍』(※6)の一瞬があるぐらいで。シネコンに来るアベックにあれ見せたのは、すごいことだと思います。劇的なことと演出的なことと、音響的な要素を全部パーフェクトにできたっていうことに関しては、おそらく日本映画として最大規模だと思います。日本映画最高の見せ物だったと言い切れますよ、僕は。

インタビュア
それと、本当にこれは集団で見る価値のある映画になってましたね。
大月
それがその万博感覚。

インタビュア
お祭り感覚ですか。
大月
そうそう、まさにお祭り感覚。万博でいろんな人が並んで見に来てるわけじゃない。あれに匹敵しますよ。劇場映画って「作品」だとかってすぐ言われるけど、もとは見せ物小屋だからね。だから、何とか博覧会の三六〇度大パノラマショー的な興奮があったのは、良かったよね。

インタビュア
そうですよね。やっぱり映画は体験ですからね。
大月
映画は体験、まさにそうですね、しかも、ものすごい体験。『エヴァ』を体験するという感じだったんです。作品として庵野の演出力、鶴巻の演出力、摩砂雪の演出力を堪能する。鈴木とか松原とか本田とか、みんなの作画力を堪能する。でも、それ以上に、見せ物、パノラマショー的な経験だ。体感する経験だよね、あれはね。

インタビュア
しかも全身でね。大勢で。
大月
うん。僕は現場ノータッチだったので、実はダビングの時に初めて見たんですよ。もうびっくりしてね、おしっこ漏れそうになりました(笑)。これはすごいと感心したね。ちょうどそのころ、わりと小さめの映画館を用意していたんですけど、公開直前になって問い合わせが殺到していると。もっと大きいところでやらないのかという電話が、一日に数十件かかってくる。それで直前に映画館を振り替えたんです。それも大成功だったよね。日本映画だと興行の慣習でそういうのあり得ないんだけど、今回はインディーズ的なやつだから、そういう離れ業も実現出来たんだよね。

パフォーマンスの場を提供する、究極の仕事

インタビュア
大行列もできましたし、そういう調整も、全部いい方に作用しましたね。
大月
うん。映画館が変わるとか、行列するとかって、それもひとつのイベント、ドラマなんですよ。僕が轟木さんと配給会社さんのところに行って口酸っぱくして言ってたのは、「イベントとドラマを作らなきゃダメなんだ」と。まず飢餓感を出そうと。並んで入ったとか、並んだけど入れなかったとか、必ず苦労して届く。それが『エヴァ』なんだと。手の届くところに置いたら、もはや『エヴァ』じゃないんだ。ちょっと遠めに置いて、飢餓感をあおる。それはズバリ当たったよね。「もう二回も並びましたよ」とか「朝行ったら入れなくて、夜ようやく観られましたよ」って、それがもう体験なのよ。顧客として消費者として、最高のパフォーマンスなんですよ。
ベタベタとTVで何回も何回も宣伝するとか、そういうんじゃなくても、お客さんはいっぱい並んだ。お客さん自身も体験をして、パフォーマンスをする。確かに苦労はするけど、僕は一言も苦情を聞いたことがない。みんな、楽しそうに話す。「どこ行っても入れないんだよ」なんてね。

インタビュア
確かに私にも「パンフ買えないんですよ」って、友だちが何人もなぜかとても嬉しそうに語ってくれましたよ(笑)。
大月
「売り切れで怒り狂いましたよ」とか言いながら、なぜかニコニコしてる(笑)。『エヴァ』の持ってた飢餓感って絶対にあるよね。初期にも「秋葉原行かなきゃ買えない」とか、「五百円のグッズが一万円になってしまった」とか、やっぱり嬉しそうに言ってたもん。それがみんな興奮して燃えたところだった。だから、今回もみんな嬉しそうに苦労を言うんだよね。

インタビュア
そういうところも、お祭りっぽくて良かったように思います。
大月
良かったよね。だって、こっちが何か段取りして準備して、大金かけてとかじゃないわけですよ。そういうことは僕も轟木さんも、いっさいやっていないわけです。宣伝費なんか全然かけてないし、イベントもやっていないし。

インタビュア
アニメブームの出発点たる一九七七年の劇場版『宇宙戦艦ヤマト』のあたりも、ファンの参加の感覚、お祭り騒ぎから始まってますからね。映画自体も現象も、ひさびさにあの感覚を思い出しました。
大月
そうだよね。こういう感動はさ、昔はみんなどこかで魂の一体感があったわけよ。僕らみたいな送り手も、映画観にくる受け手の観客も、心の一体感があった。その作品を応援する、声援する、いっしょに見る、感動する、参加する、パフォーマンスする。それは送り手・受け手とお互いのパフォーマンスなんですよ。拍手するのも並ぶのも、パフォーマンスです。それを共有する。パフォーマンスする喜びを共有するっていうことが、そもそも映画なんです。「TVスポットの宣伝費を、いくらいくらかけたからいくら入る」とかって、これはもはやパフォーマンスじゃない。

インタビュア
それは単なる計算式ですよね。
大月
その計算式が、お客さんの個性を殺している。それは利益追求の結果ですね。そうじゃない。お客さんだって、パフォーマンスしたいんですよ。「並びました」、「夜になってやっと観ました」って、みんな嬉しそうに話す。そういう場や機会を提供するのが、われわれの究極の仕事のような気がするね。

PROFILE

エグゼクティブ・プロデューサー:
大月 俊倫


1961年生まれ。茨城県出身。キングレコード常務取締役、同社スターチャイルドレーベル本部長、企画会社ガンジス社長。1984年に入社後、スターチャイルドレーベルに所属し、ウルトラシリーズや『ミラーマン』など特撮作品のサントラアルバムを庵野秀明とともに手がける。『ドリームハンター麗夢』ドラマCDのヒット以後、プロデューサーとして活躍。特に声優・林原めぐみのアルバム制作など、徹底したプロデュースは有名。1995年のTVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』ではEVA製作委員会として庵野秀明監督の作品づくりをサポートした。プロデュースの代表作に、『機動戦艦ナデシコ』(1997年)、『少女革命ウテナ』(1997年)、『ネギま!?』(2007年)、『ライオン丸G』(2007年)、『鉄人28号 白昼の残月』(2007年)、『さよなら絶望先生』(2007年)などがある。

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby FelipeFritschF » Sun Mar 21, 2021 5:01 pm

I'll give y'all a little something my translator buddies have already noticed just from skimming over this:

Around 2000, Anno considered making "Evangelion Part 2" but couldn't move the project forward because he couldn't find people interested in it.

ok so turning Eva into classic standard/text was the aim, just like Gundam is one. Then there was idea about making Evangelion "Part 2" new series, though Anno's own personal ideal was "G Evangelion"
reference to G Gundam


Which implies NGE+EoE would still be "master" story, though I'm not clear on this yet.

only reason Rebuild got done was because no one dared to touch Eva
lmfao
"Fine, I have to redo it first myself" t. Anno
also interesting is the part about studio
apparently Anno for the longest time figured out they would just do Eva in some other studio
but as a matter of fact (and surprisingly) Anno's team approaching all these studios with "yo wanna do Eva" were met nervously
more nervously than industry outsiders would assume, and Anno even adds Eva had its insider haters just like it had at the time of the original!
so after few of these approaches had fell through due to "various circumstances" they finally decided to turn Khara into a studio


so because no one dared to do "G Evangelion" out of the blue Anno resigned to idea "V Gundam" (last Tomino series before Alternative Universe Gundams started with G) had to be made first by himself, and after he had shown with his "V Evangelion" "this kind of Evangelion is fine too" others would dare to create something like G Evangelion


Rebuild started in June 2005

Anno mentions the Gundamization of Eva. Literally, Gundamizaton of Eva.

In 2006. Remember the interview we have about it in English is from 2016, ten years later. If he has changed his mind at all it happened in the last 5 years.

the question is: does Anno consider acting as kind of quality level guarding producer overseer on future Eva titles by other people continuation of Eva in his personal case?
If he does then it's not going to happen after Shin, clearly.
if he doesn't then the Gundamization Plan might still go through


Alas, for other anime at the time Anno launched Rebuild he felt only Gundam was comparable pillar of the industry. Yamato was supposed to be another one, but it was sunk by various circumstances (and indeed Yamato was inactive for long period still). Macross was next to Gundam but hadn't reached normies yet. Ghibli went full normie, but ended up becoming like Disney and thus not fit to the anime category Anno was thinking of.

So he wanted to turn Eva into the 2nd pillar for non-kiddie anime industry.
Last edited by FelipeFritschF on Sun Mar 21, 2021 5:57 pm, edited 1 time in total.

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Archer » Sun Mar 21, 2021 5:46 pm

Eva never really felt like it lent itself to many side stories outside the scope of the main cast, since you can count the number of giant robots on one hand and the entire “timeline” is more or less constrained to the 15 years between 2nd Impact and Instrumentality, and all of the really important events are already addressed by the story. I’m definitely interested in what this “Eva Part 2” pitch was, since NGE+EoE is about a definitive an ending as you can get. My guess is either an alternate-universe story or a story set in a post-3I rebuilt society.

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby baldur » Sun Mar 21, 2021 9:32 pm

View Original PostArcher wrote:My guess is either an alternate-universe story or a story set in a post-3I rebuilt society.

I like how combining these two just gives you Q lol

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Riki » Sun Apr 11, 2021 2:47 am

I've finished a translation of the Tsurumaki part, so if you're interested in visit my site to check it out. ^_^
https://www.buymeacoffee.com/rikki/complete-recordings-1-0-interview-kazuya-tsurumaki

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Re: Evangelion:1.0 CRC interviews

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Postby Zusuchan » Sun Apr 11, 2021 4:33 am

Much thanks, Riki! I'll write some more on my impressions of the interview later on, if you wish-I'm a bit busy at the moment.


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